「ピンチはチャンス」とよく言います。しかし、不安と焦りばかりがふくらみ、とてもそんなポジティブ思考になれないことだってあるものです。
そんなとき、一瞬で事態を好転させてしまう開運アクションがあります。誰にでもすぐできて効果はバツグン。これは実践あるのみですよ!

ポジティブな行動が、ポジティブな心理を生む

人は「楽しいから笑う」のか、「笑うから楽しい」のか?

みなさんはどちらだと思いますか? 楽しいから笑うに決まってる。多分、これが多くの人の認識でしょう。ところが最近の脳科学では、むしろ逆であることが立証されつつあります。私たちの脳は、まず行動をインプットすることで、それにふさわしい思考や感情を自動的に生み出すというのです。

試しに、怒りながらスキップしてみてください。おそらく難しいはずです。スキップは心躍るような快活さを表現する行動です。だから脳は「この人は楽しいのだ」と判断します。「バカヤロー!」などと怒りながらスキップしようものなら、脳はたちまちバグってしまうのです。

ちなみに、やる気のメカニズムも同様だそうです。やる気は行動を起こす要因ではなく結果です。したがって、まずやりはじめない限り、いつまで待っても脳はやる気を出さないというわけです。

さて、このことからわかるのは、メンタルをコントロールするには、まず行動を変えるのが近道だということです。

仕事や人生では、思わぬピンチや逆境に立たされることがあります。そんなとき、肩をガックリ落として弱音を吐いていれば、脳は「もうダメだ、人生終了」と、思考をさらに悪いほうへ悪いほうへと運ぶだけ。こんなときこそ笑いましょう。とても笑ってなんかいられない状況であっても、あえて笑って、脳に「今、私は楽しい」と刷り込むのです。そうすることで、思考がポジティブな方向に切り替わり、これが前に進むパワーとなってくれるのです。

“笑い”がリーマンショックの大ピンチを吹き飛ばした

私自身、笑いの力で難局を乗り越えたことが何度もありました。

今も忘れられないのは、2008年に起きた金融危機、リーマンショックのときのことです。あの大混乱のなか、私の会社も存続の危機に立たされました。役員だった私は、1週間分の着替えを用意して会社の近くのホテルに泊まり込み、不測の事態に備えました。夜、ホテルの部屋でひとり缶ビールを飲んだのですが、不安と緊張でまったく酔えなかった。逆に頭の芯が醒めて、顔色もどんどん青ざめていくのです。「会社はもうダメかもしれないから、覚悟しておくように」。妻には電話でそう伝えました。

事態はそのくらい深刻でした。オフィスにはお客様からの問い合わせの電話が鳴り響き、対応する部下たちも自信がなさそうに受け答えしています。おそらく私の動揺が伝わったからでしょう。

ところが、ある時点でふと思ったのです。「何も私がリーマンショックを起こしたわけじゃなし。こんな暗い顔していてもしゃーないな。とりあえず笑おう」と。こうなると半分ヤケ、開き直りですね。

翌朝、私は満面の笑みで「おはよう!」と明るく出社しました。すると不思議なことに部下たちが急に元気を取り戻したのです。私が笑っているのは、きっと資金繰りがうまくいったからに違いないと、良い意味で勘違いしてくれたのでしょう。私自身、笑うことでそれまでの緊張がほどけ、今何をすべきかを冷静に考えられるようになっていました。

その日から流れがガラッと変わりました。電話の受け答えも「大丈夫ですよ」と力強いものになり、お客様の不安も払拭することができました。こうして営業活動も再開し、最終的に、2年後、会社は上場を果たしました。“笑い”が運を運んできてくれたのです。

運を良くする「表情筋トレーニング」

第1話でお話ししたように、左遷をきっかけにうつ病になったことがありました。その頃の様子がホームビデオに残っているのですが、今見ると我ながら「よくこんなに暗い顔をしていたな」とあきれます。無意識にですが、暗い顔で不運をアピールしていれば誰かが同情して助けてくれると期待していたのかもしれません。しかし、同情されることはあっても、助けてくれる可能性はゼロに近かったでしょう。

陰気な表情で不機嫌をまき散らしている人間と友達になりたい人はいません。私は数多くの入社面接を担当してきましたが、やはりそういう人を採用したいとは思いません。ビジネスの取引相手だとしても敬遠するでしょう。つまり、暗い顔をしているだけで人が離れていき、運を落とすということです。

逆に笑っていれば、自動的に相手から好意を引き出せます。「この人の力になりたい」と、良い人脈や情報が手に入ります。運はこういう仕組みで上がっていくのです。

なかには、日頃あまり笑ったことがなく、笑顔を作るのが苦手な人もいるでしょう。コロナ禍でマスク生活が続いたため、表情を気にしなくなっている人も多いように見受けられます。

今からでも遅くありません。ぜひ笑顔の練習をしてください。表情筋も他の筋肉同様鍛えることができるものです。朝起きたら、鏡の前でワハハッと笑ってみる(声は出さなくてもOKです)。これだけで表情が柔らかくなり、人に与える印象も変わります。

練習のポイントは、「鏡の前」で行うということです。自分の笑顔を、自分の目を通して直接脳にフィードバックすることで、よりポジティブな感情をつくりやすくなるからです。また、朝笑顔を作ることでその日は一日中メンタルが安定し、少々のことでは動じない強さを手に入れることもできるのです。

伸びる人、うまくいく人ほど明るく挨拶する

前職では、役員として私が所轄する店舗が23ありました。そのうちのある店舗を朝イチで訪ねると、どういうわけかシーンと静まり返っています。社員は全員出社しているはずなのに……です。なぜだと思いますか? 答えは、この店舗では誰一人「おはようございます!」と元気に挨拶する人がいなかったからでした。

挨拶もまた、笑顔とともに大切なコミュニケーションの原点です。そしてコミュニケーションの良し悪しは、取引先との交渉、販売、営業成績などにダイレクトに響きます。おろそかにしていれば、当然結果が出せません。実際、その店舗の成績も23店舗中最下位でした。挨拶の風土が根付いていない職場は、それだけで運を落とすのです。

プライベートでも同じです。うつ病を患っていた頃の私は、毎日しょぼくれた顔をしてため息ばかりついていました。帰宅しても「ただいま」のひと言も言わず、家族に背を向けていました。そんな私に、妻も子どもたちも声をかけようとしませんでした。私は自分から運を手放し、家族に迷惑をかけていたのです。

自戒を込めて言えば、うまくいっていない夫婦は、たいてい挨拶がありません。みなさんのご家庭は大丈夫ですか? ドキッとしたら、明日はぜひ大きな声で「おはよう!」と言ってみてください。

(構成=金原みはる イラストレーション=髙栁浩太郎 撮影=大崎えりや)