「考えは言葉となり、言葉は行動となり、行動は習慣となり、習慣は人格となり、人格は運命となる」。これは、英国の元首相、故・マーガレット・サッチャー氏の名言です。これは、普段使う言葉は、最終的にあなたの運命を左右するという意味ですね。では、自分の良い未来をつくるには、どんな言葉を使ったらいいのでしょうか。早速学んでいきましょう。

営業部のトップ組とドンケツ組、会話のどこが違うのか?

日本信販に勤めていた時代、全国2000人の営業マンのなかで最下位という不名誉な記録をつくったことがありました。当時所属していたのは、売上高全国1位だった東京・新宿西口支店。そこで働く11人の営業チームのなかでも、当然、私が最下位です。

その頃は、よく会社帰りにうだうだと飲みに行っていたものでした。いつも一緒だったのは、営業成績11位の私と、10位、9位の“ドンケツ3人組”。そこでの話題といえば、お決まりの上司や同僚の悪口、会社や仕事に対するグチや不平不満ばかりでした。

特に盛り上がる話題は、成績のいいメンバーに対する陰口でした。「あいつはズルして、いい顧客ばかり横取りする」「人のエリアを勝手に荒らす」など、やっかみ半分で言いたい放題、それで溜飲を下げていたのです。

そんなある日、たまたま成績1位、2位の2人と昼食に行く機会があり、驚きました。場の雰囲気は始終爽やかで、とにかく出てくる言葉がまったく違うのです。

たとえば“ドンケツ3人組”が、「あんなの売れっこない。欠陥商品だ」と飲み屋でぼやいていた会社の新商品が、こちらの上位組にかかれば「確かにあれは今までなかった商品だ。だからこそ新しい販路を開拓できるかもしれないね」と、こうなります。

かたや物事のマイナス面ばかりに焦点を当てて「どうせムリ」、かたやプラス面を探して「チャンス」ととらえるのですから、両者の違いは明白です。自分の成績が上がらない理由はこれだったのか! そのときやっと気づきました。

運がいい人が、人の悪口を言わない理由

逆説的ですが、もしあなたが今すぐ不幸になりたければ、よく効く呪文があります。それが悪口、グチ、不平不満です。毎日言い続ければ、当時の私のように必ず仕事につまずき、運に見放されていきます。

自分が結果を出せないのを、周りの人や環境のせいにしているからです。文句を言っている間は自分の問題から目を背けていられるので、そこそこ気は楽かもしれません。しかし、これでは成長はありません。思考がストップして建設的なアイデアは出てこないし、「やるぞ!」という気概や行動力も生まれません。

あなたも、知らずに「不幸の呪文=悪口、グチ、不平不満」を唱えていませんか? 心当たりがあるなら、今すぐ封印しましょう。

人の悪口に関しては、実は、言いたくなる気持ちもわからないではありません。世の中、いろいろな人がいます。とんでもなく身勝手な人、常識やマナーのない人もいるでしょう。聖人君子ではありませんから、内心ムカッと来ても仕方ありません。ただ、みなさんに守っていただきたいのは、心で思っても決して口には出さないことです。

たとえばスポーツ談義で「アンチ○○」同士が盛り上がるように、悪口を共有するとその場は仲良くなれた気がすることもあるでしょう。しかし、身近な人の悪口となれば話は違います。なかには平静を装いつつも「この人は、自分のことも陰で悪く言っているのでは?」と相手の人間性を疑う人もいるはずです。ビジネスパーソンにとって信用を失うことは、運を失うのと同義語です。口は禍の元と心得ましょう。

あなたが発する言葉が、「現実」を連れてくる

さて、“ドンケツ3人組”には、ほかにも口癖がありました。それは、「そんなのできっこない」「でも」「だって」「疲れた」などの否定的な言葉。今思えば、仕事に対するモチベーションを感じられないし、上司として、いえ同僚としても、こんな人に仕事を任せられるはずがありません。出世できないのも当然です。

「できません」「ムリですよ、そんなの」と言った瞬間、人は大急ぎでできない理由を考えます。時間がない、前例がない、もう若くない……。そして、「ほら、やっぱりムリでしょ」と自分を正当化するから、できるものもできなくなります。

頼まれた仕事は、たとえ自分には荷が重いと思っても、まずは「やります!」とYESを出しましょう。やると決めれば、どんな難しい案件でも、自分なりにやれる方法を模索するものです。歴史に残る大発明も大発見も、できると思った人がいたから実現しました。ポジティブな言葉が、ポジティブな現実を連れてくるのです。

やってみてどうしてもムリなら、そのときは誰かに助けを求めればいいのです。精一杯やった後なら、それであなたの価値が下がることはありません。私が上司なら、むしろ、チャレンジしたことを評価するでしょう。

意外に思うかもしれませんが、「忙しい」という言葉も、ネガティブワードの一つです。「ちょっと今忙しくて、手が離せません」「連絡できなくてすみません。忙しくて」

こんな言葉を聞いて、あなたならどう感じますか? 「いや、忙しいのはこっちも同じなんだけど……」と、ちょっとモヤッとしませんか? 「いいね、あなたは暇で」と暗にけなされたようでいい気分がしない人もいるでしょう。

成功している人は、普通の人の何倍もやるべきことを抱えています。しかし、私が知る限り、彼らから「忙しい」という言葉は聞いたことがありません。こちらが「お忙しそうですね」とたずねても、「いや、楽しいよ」「おもしろいよ」という前向きな言葉が返ってくるのです。

言えば言うほど運が良くなる「最強ラッキーワード」とは?

同じく成功している人がよく使うのが「ありがとう」の感謝の言葉です。

京セラ創業者の故・稲盛和夫さんの口癖は、「なんまん なんまん ありがとう」でした。「なんまん」とは「南無阿弥陀仏」の意味で、地元鹿児島で、幼い頃寺の住職から授かった言葉だそうです。“経営の神さま”と称されあれだけ成功した稲盛さんですが、若い頃は挫折と逆境続きでした。それを乗り越えるバネとなったのが「ありがとう」の言葉だったと述懐されています。

確かに、何かトラブルが起きたときでも、まず「ありがとう」と感謝すると、「勉強になった」「今、気づけて良かった」と、悲観的だった気持ちがポジティブ思考に転換されていくものです。「ありがとう」の言葉には、人を明るく前向きにさせてくれるエネルギーが秘められているのです。だからでしょうか。感謝の言葉を口にする人は周りから好かれ、自然と人が集まり、運も集まってくるのです。

こんなお話しをすると、「『ありがとう』を言う機会なんて、滅多にありませんよ」と異を唱える人もいます。しかし、そうでしょうか?

コンビニのレジでお釣りを受け取るとき、カフェでコーヒーを運んできてくれた店員さんに、オフィスに出入りする宅配便や清掃の方に。日常生活には、相手に感謝を伝えたい場面がいくらでもあります。「相手は仕事だから、やってくれて当然」という考えもあるかもしれませんが、人の気持ちは理屈じゃありません。

みなさんも、頼まれた書類を提出したとき、「ああ」しか言わない上司より、「ありがとう」と感謝してくれる上司の下で働くほうが気持ちが良いし、やりがいを感じるのではありませんか?

言い慣れないと、最初は照れくさいかもしれません。正直な話、私も“ドンケツ3人組”時代は言えない人間でした。しかし、今では1日100回くらいは「ありがとう」の言葉を発しています。そのたびに相手がふわっと笑顔になって、こちらも喜びを感じます。それだけで一日中機嫌良くいられるのです。

「ありがとう」を言うのにコストはかかりません。言われてイヤな気持ちになる人もいません。こんな最強のラッキーワード、今すぐ使わないともったいないですよ。

(構成=金原みはる イラストレーション=髙栁浩太郎 撮影=大崎えりや)