古川新一(日本ラグビー協会リソースコーチ)
日本ラグビーフットボール協会と国際協力機構(JICA)が合同で実施する「JICA-JRFUスクラムプロジェクト」の第一弾として、古川新一はスリランカで3カ月間、ラグビー指導に携わってきた。どこか顔つきがたくましくなっている。言葉に充実感がただよう。
「チャレンジは大正解でした」
2019年ワールドカップ(W杯)を開催する日本協会が、アジアのラグビー途上国の支援のために発足させたプロジェクト。アジア諸国に派遣される指導者はいわば、サクラのエンブレムを心につけた「日本代表」みたいなものだろう。
古川は32歳。高校ラグビー界の名門・大阪工業大学付属高校(現・常翔学園高校)から近畿大学でフッカーとして活躍し、ヤマハ発動機のラグビー部でもプレーした。現役引退して4年。有能な人材の育成指導にあたる日本協会のリソースコーチをしていたら、この海外派遣募集に出会った。
「びびっときたんです。直感でした」
古川が今年3月派遣されたのは、スリランカ北西部州のクルネーガラだった。人口がざっと3万人。珍しい外国人ということで熱烈歓迎され、年老いた女性からもキス攻撃をされた、と笑いながら振り返る。
指導するのが現地のマリヤーデバ大学だった。まずは練習の動機付けから始めた。練習メニューを工夫し、相撲を取り入れた。「フル」と愛称で呼ばれ、「フル・ヨコヅナ~」とも。
「相撲の目的は3つ。練習をオモシロくする、日本の文化を伝える。プレーでワキを締めるようにするためです」
ラグビーは我慢のスポーツである。自身の感情をコントロールしないといけない。さらにはチームワークを尊ぶ。スリランカでは試合中、よく殴り合いが起きた。判定に怒った観客がレフリーを殴ることもあった。
実際、古川が指導するチームの試合で、相手のパンチに応戦し、相手1人、味方2人の選手が退場処分を受けた。試合後、古川は「ファイトプレーとラフプレーの違い」を諭し、チームワークの大事さを説いた。
退場後の試合を見ろ。相手チームより1人少なくなったチームメイトがどんなに厳しい局面におかれたか。古川はこう、言った。
「仲間のために我慢しなさい。男だったら、パンチなんかモスキート(蚊)だと思え! ラグビーはチームスポーツだよ」
練習のテーマは3つ、「心」「技」「体」である。心は「ハードワーク」を、技は「タックル」を、体は「体力・知識」を柱とした。モットーが、「Do Our Best」。
「Do Your Bestじゃない。自分も一緒にベストを尽くそう、僕はそういう主義なんです」
悪戦苦闘の海外派遣を終え、今でも毎日電話で話す「ビッグ・マチャン(スリランカ語で大親友)」もできた。「奥地前進主義」を大事にする。
「現地の言葉をしゃべり、生活を共にし、一緒に前に進んでいこう、との意味です」
今後もリソースコーチとして国内で指導にあたる機会もあろう。ヤマハ発動機の物流・安全貿易部所属。
「夢は、指導した選手が日本代表になること。仕事でまた、アジア諸国にいく機会もあるかもしれない。その時は現地のラグビーチームを教えたい」
家族は妻と8歳の長女、6歳の長男。草の根の“親善大使"の夢がアジアを駆けめぐる。