1勝3敗1引き分け。今年4月の「第2回電王戦」でプロ棋士はソフトに負け越した。コンピュータのデータ解析能力は、将棋のような複雑な世界でも人間を上回りつつある。こうした「ビッグデータ」はビジネスではどう活かされているのか。各社の最新事例を探った──。
166万台分の稼働記録から、将来の故障を予知する――。東芝が商品化を目指しているシステムを使えば、ハードディスクドライブ(HDD)がクラッシュする前に交換できる。データの蓄積が「宝の山」になった一例だ。
東芝は、08年から自社のノートパソコンに「PCヘルスモニタ」という自己診断ソフトを搭載。各部品の温度変化や稼働状況などをネットを通じて収集する仕組みを整えてきた。研究開発センターの西川武一郎さんはいう。
「相当量のデータが集まってきた手応えがあったので、11年秋からサービスへの展開を探り始めました。そのなかで『故障の予兆をつかまえる』という考えが出てきた。実際にHDDが壊れてしまったパソコンの稼働ログを分析することで、予兆と故障の因果関係がわかるのではないかと考えたのです」
重要なのは時系列のデータだ。ある時点で衝撃を受けた場合、自己診断の結果が徐々に悪化しているならば、近い将来に故障する恐れが高い。しかし一時的に悪化しても、その後の経過が安定しているなら将来の故障確率は低い。こうした相関関係を700以上の項目にわたって計算し、故障予知の仕組みを整えた。故障のリスクは「低」「中」「高」の3段階で示され、予兆を検知した場合とそうでない場合では、故障発生率で67倍の違いが出る。東芝では、今年度中には業務用のパッケージにこの機能を搭載する予定だ。
これまでパソコンの更新は担当者の経験やOSの変更にあわせて行われていたが、故障予知ができればその判断は大きく変わる。また将来的には個人用のパソコンに搭載される可能性もあるという。HDDがクラッシュして途方に暮れた人たちの思いが、故障予知という形で役に立つ日が来るのは近い。
【東芝】ノートPCの故障を事前予測
・166万台分の稼働ログを5年間にわたり蓄積
・故障のリスクを3段階に分類
・経験頼みだった買い替えを効率的に
・166万台分の稼働ログを5年間にわたり蓄積
・故障のリスクを3段階に分類
・経験頼みだった買い替えを効率的に