一連の総合評価や能力開発計画については上司との話し合いを経て最終的に合意の署名を行う。ところで多くの企業では評価の客観性、公平性を高めるために精緻かつ定量的に測定する評価シートを用意しているが、同社のW&DPはそれほど厳格な評価シートにはなっていない。部下の報酬を決定するのはあくまで現場のラインマネジャーであり、昇給などの処遇に対する説明責任の一切を負うことになる。つまり評価や育成のための仕事の与え方を含めて納得性を得るには何より部下と上司の信頼関係があってこそ成り立つという考えが背景にある。
「評価をするために多くのリサーチやデータが必要になるということはもともと上司・部下間の信頼が構築されていないからではないか。当社のラインマネジャーは人材を採用するかどうかを決定し、入社後は育成を担当し、昇進させるかどうかの意思決定も行う。その意味では上司の決定しだいで部下の運命が決まることになる。意思決定が正しいという確証を得るには部下の強みと弱み、またニーズを100%把握しなければならないし、それがあって初めて部下の能力を100%引き出すことができる。その前提となるのは社員と会社、部下と上司の信頼関係である」(ソン・ディレクター)
「信頼」は前述したPVPの中核となる価値観の1つだ。信頼関係が築かれていれば、多少の誤差はトラブルなく理解され、解消される。同社の育成の根幹となるOJTも信頼関係があって初めてうまくいくのである。逆に信頼関係が崩れるとどんなすばらしい制度も砂上の楼閣に帰するしかない。
内部昇進制は信頼関係を醸成する基盤でもあるが、それだけで保たれるわけでもない。常に変化する会社と社員の利害を一致させていくためには、信頼関係を築く日々のたゆまぬ努力が不可欠となる。P&Gの実践は日本企業が怠ってきた内部競争力の活性化に大きな示唆を与えるのではないか。