創業者は自社の強みをゼロから築いた存在であり、その原点に立ち返ることは、自社の強みを再確認することにほかならない。ビジネスにおいても大量の情報が出回り、新しいツールが次々と出てくるなかで、目移りせず、自分たちは何を繰り返し磨き続けなければいけないのかを見極めるための「創業者目線」が求められているのである。

結局、「譲れない一線」がなぜ必要かといえば、「これは絶対に繰り返さなくてはならない」ということを現場に徹底しないことには、目線がどんどんブレていくからである。「譲れない一線」は、何項目もある必要はなくて、多くても5つくらいのことに絞りこまれた「これは絶対やるべし。あとは考えなくていい」という指針である。

日本の企業が、創業者目線を取り戻すためにはどうしたらよいか。これは突き詰めれば、リーダーの選び方を変えていくしかない。次期社長を選ぶときに、「出世コース」にうまく乗った人間が既定路線で社長になるという会社は、創業者目線から離れていくリスクが大きい。なぜならそういう人は、出来上がったルールの中でその作法にのっとって成功してきた人だからである。経済全体が成長期にある場合は、それでもよいのかもしれないが、いまのような低成長の先が見えない時代には、過去の環境の中である思考のパターンが出来上がっている人がはたしてリーダーとしてふさわしいだろうか。主流から外れたところから次期経営者を引っ張ってきてトップに据えるというのは、組織の論理に挑戦することであるから、当然軋轢もあるだろう。しかしそれを押し切ってでも、組織全体を創業者目線に回帰させるように舵をきれるかどうか。現リーダーにとって一番大事な仕事は、適切な次世代のリーダーを選ぶことである。

(構成=荻野進介)
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