実は、この研究からはもっと画期的な経営理論が導き出されると思ったのだが、継続的に高成長を維持している企業がやっていることは、突き詰めればこの3つであった。見方を変えると、経営トップがわがこととして事業をとらえれば、必然的にこだわることである。どんな企業もスタート時には強力な商品やサービスがあり、創業者はそれでどう勝つかに徹底的にこだわる。ゆえに、現場にも自分と同じ思いを持った分身をつくろうとする。創業者は分身たちを通じて顧客や市場のちょっとした変化を敏感に感じ取る。つまり、「創業者目線」が行き届いている企業では、経営層と現場の距離がきわめて近い。
企業は成長にともなって必然的に規模が大きくなるが、それにつれて組織の複雑性が増大し、この「創業者目線」が失われていく。その結果、「官僚目線」がはびこる。組織が複雑になると、戦略、意思決定、商品、プロセスのすべてが複雑化し、それをうまく管理していくことが経営の目的化していくからだ。そうなると経営と現場、経営と顧客の距離はひらくばかりで、自社が強みとする事業に集中し、そのために必要な能力を磨き続ける地道な努力に自信が持てなくなり、世間の話題となっている新しい市場ばかりに目がいってしまう。「どう勝つか」ではなく、「どこで戦うか」に気を取られるので、現場における「譲れない一線」は忘れられ、現場は上の命令を忠実に実行するロボットになりはててしまう。そうなるとますます顧客との距離がひらいてしまうが、「官僚目線」の経営者は、顧客を知るために現場との距離を縮めるどころか、外部の調査機関による定量調査ばかりに頼ったりする。
「官僚目線」の経営がもたらす弊害について、具体例を挙げよう。あるメーカーが最近、営業を管理する仕組みを構築したが、当の営業マンにしてみれば余計な手間が増えるだけで売り上げが伸びるわけでもなく、迷惑このうえない話だった。これが「創業者目線」の経営者なら、もっとも優秀な営業マンが思い切り力を発揮できる仕組みをつくろうとするだろう。つまり現場起点で考えるのだ。
また、「官僚目線」の経営がすすむほど増えるのが、会議の数である。なかでもたちが悪いのは、意思決定権者が含まれない「会議のための会議」である。創業経営者なら、絶対にこんな時間の無駄は許さないはずである。