この場合、「バカヤロー!」という言葉尻だけを捉えてパワハラかどうかを判断することは難しい。問題となるのは、その言葉の周囲にある状況や受け手の尊厳を傷つけたかどうかである。

部下にしてみれば「改善努力はしている。みんなの目の前でバカヤローと大声で罵るのはゆきすぎだ」という納得できない気持ちを抱くかもしれない。そうなれば、パワハラとして訴える可能性も出てくる。

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パワハラかどうか判断が難しいケースがある

ところが、人間関係の距離が近ければ話は変わる。普段からいろんなことを話し合うことができ、尊敬している上司から「バカヤロー!」と言われたのであれば、部下は激励と受け止めるはずだ。また、人間関係の距離が近ければ、「言いすぎだった、悪かった」と謝れば済むケースも少なくない。そこがパワハラとセクハラとの大きな違いでもある。

では、人間関係の距離を縮めるためにはどうしたらいいのだろうか。まず、上司が我慢をして部下への不満をためこむのは、職務遂行上、精神衛生上よくない。部下の仕事ぶりで気づいた点があれば、小出しにして密なコミュニケーションに努めるのが賢明だ。ただし、感情的にならないためにも、即その場で指摘するのではなく、定期的に部下と仕事の進め方について話し合う機会をつくろう。未熟な経験にチャンネルを合わせて、経験論だけで説明をしないことも重要となる。

くれぐれも「お酒に誘ってノミニケーションでOK」などと考えてはいけない。いまや、それ自体がパワハラの引き金となりかねないのだ。

(「職場のハラスメント研究所」代表理事 金子雅臣 構成=小澤啓司)
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