空気を読まずに“逆張り”し続けると、自ずと人は寄ってくる
――お話を伺っていると、きぬた先生はネット広告全盛の時代にあえて看板広告に振り切ったり、一見チャンスのなさそうな場所でも「金になるネタ」を探そうとしたりと、“逆張り”を続けられていますよね。
きぬた:そうかもしれないですね。逆張りって黒いものを白いと言い張ることではなく、一旦、黒だと仮定してやってみたけれどやっぱり違うと判断した時に、恐れずに白いほう、つまり我が道を突き進むことだと思っているんです。だから僕も、常に動きながら検証を続けていたら、結果的にそれがたまたま逆張りになっていたというだけですね。
――きぬた歯科はいま、ユニークな広告戦略でたくさんのファンを抱えていますよね。これまでの仕事人生を振り返って、やはり最初から人の目を意識して振る舞うよりも、我が道を突き進んだほうが人とのつながりはできやすいと感じますか?
きぬた:それはもちろん感じます。だってファンの人がきぬた歯科の看板を神経衰弱にしたいって言ってきたり、メーカーの人が看板のガチャガチャを作りたいって言ってきたり、そんなの最初から予想できるわけないじゃないですか(笑)。
たぶん、空気を読まずに我が道を行こうとする人を見ると、みんな面白いと感じるんでしょうね。他人ではなく自分を応援し続けると人は自然と寄ってくる、というのが僕のモットーなんです。バズるんじゃないかと人の目を気にしながら何かやってる人ってつまらないじゃないですか。看板も、これだけ好き勝手にやりきったからいろんな人が目をつけてくれて、人との出会いも広がったと思うので。
……そういえばさっき、妻と「看板離婚」しかけたって話をしましたけど、離婚せずに済んだのも結局は看板のおかげなんですよ。
――え、そうなんですか?
きぬた:妻から「看板をやめてくれ」と言われたのと同時期に、あるテレビ番組がきぬた歯科に突撃取材をしにきたんです。なんであんなにたくさん看板を置くんですか? って聞かれたものだから、どうやって答えようかちょっと迷って、とっさに「看板は男のロマンです」「ロマンに有り金を全部使ってるんです」って答えました。その放送を八王子の人たちがわりと見てくれていたみたいで、それをきっかけに周囲からの風向きが少し変わったんです。看板を立てるためだけに稼いでる歯医者っていうのがウケたのかな。おかげで、結婚生活は「逆張り」せずに済みましたね。
取材・文:生湯葉シホ 写真:佐坂和也 編集:はてな編集部 制作:マイナビ転職