比較的安全に食べられる生肉とは

では、生肉はどれも危険なのでしょうか。じつは、ある程度は安全に食べられるだろう生肉もあります。ただし、100%安全ということではありません。提供する側がルールを守っていれば、一般の消費者が食べてもまあ大丈夫だろうというレベルです。

【生食用食肉の衛生基準を満たした馬肉および馬レバー】

馬肉はO157などの腸管出血性大腸菌による汚染がほとんどないため、獣肉としては例外的に生レバーの販売が許可されています。

調理器具の加熱消毒や肉表面のトリミング、寄生虫であるサルコシスティス・フェアリーを死滅させるための-20℃以下で48時間以上の凍結などの厳しい基準をクリアしたものだけが生食用として販売可能です。ただし、冷凍処理を怠った肉が提供され、寄生虫による食中毒が発症した事例があります。きちんと冷凍処理がされていることを確認しましょう。

【生食用食肉(牛肉)の規格基準を満たした牛肉】

牛肉には腸管出血性大腸菌などの病原性大腸菌が常在菌として存在するため、生レバーを食べることはできません。一方で寄生虫のリスクは低いため、衛生的な処理をした生食用牛肉は冷凍せずに食べることが可能です。

ただし、衛生的な処理をした生食用の牛肉であっても、食中毒の危険性があるので、小さな子どもや高齢者には食べさせないようにしましょう。また、飲食店で提供する場合には店舗内のわかりやすい場所に食中毒のリスクがあることを表示する義務があります。国が安全だとお墨付きを与えているわけではないという理解が大切だといえます。

安全性グレーゾーンの「鳥刺し」

では、九州地方で伝統的に食べられている「鳥刺し」はどうでしょうか。じつは鶏肉はカンピロバクターという細菌に汚染されていることが多いもの。近年、鶏の生食による食中毒が増加したことにより、厚生労働省は注意を呼びかけています。安全とはいえないまでも比較的低リスクで食べられる鶏肉は、以下の基準を満たしたものだけだと私は考えます。

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【鹿児島県独自の衛生基準を遵守した鶏肉】

鹿児島県では、屠畜から調理加工まで独自の厳しい基準を満たしたものだけを「生食用」として提供・販売することができるという取り組みを行っています。この独自の基準が、実際に食中毒予防に有効であるかどうかを評価するためには、鹿児島県内で発生した食中毒事例を確認する必要があります。厚生労働省の食中毒統計を調べたところ、過去10年間、生の鶏肉を食べたことによる食中毒の事例は一件も報告されていませんでした。鹿児島県の基準を満たした鶏肉については、安全とはいえないまでも、根拠なく危険と非難されるものでもないと筆者は考えています。しかし、同じく鶏の生食文化のある隣の宮崎県の食中毒統計を調べたところ、鶏の生食による食中毒事故は、2017年以降に5件の報告があり、安全とはいえない状況です。

独自基準を設定している鹿児島県でも、砂肝やレバーなどの生食は許可されていません。鶏の内臓肉は、どの産地のものであろうとも生で食べないようにしてください。

また、この他の猪肉や鹿肉、熊肉などのジビエ等は、さまざまな寄生虫やE型肝炎ウイルス、腸管出血性大腸菌などに汚染されている確率が高いので、どの部位でも絶対に生食しないようにしましょう。