機械の力で干潮・満潮を完全再現

カキはもともと干潟を好む生物だ。干潮・満潮が繰り返される環境下で刺激を受けながら育つ。

人間が管理する養殖池の中でも同様の環境下でカキを育てられないものか──こんな疑問から生まれた製品がロールオイスターだ。

仕組みは非常にシンプルだ。養殖池に設置された無数のバスケットが、一定間隔で水面上に出たり水面下に沈んだりする。人間ではなく機械の力によって。バスケットの中で育つカキにしてみたら、天然の干潟の中で生息しているようなものだ。

撮影=プレジデントオンライン編集部
SEADUCERのマニュアル

カキ養殖を天職にする48歳は次のように説明する。

「干潮時に太陽光にさらされると、カキは防衛本能を発揮して殻で自分を守ろうとする。直射日光を防ぐために殻を厚くし、殻を固く閉じるために貝柱を太くするのです。結果として商品としてのクオリティーは上がります」

殻付きのままで長時間流通する海外市場では、殻の厚みと貝柱の太さは高級品の証。それでは、満潮時はどうなのか。

「食べられなかったストレスの反動でカキは餌を一気に食べます。地下海水を引き入れた養殖池には餌となる植物プランクトンが豊富にありますからね」

力士のように1日に何度も食べて急成長

ロールオイスターのセールスポイントはそれだけではない。干潮・満潮の頻度が天然の干潟をはるかに上回るのだ。

具体的には、天然の干潟であれば頻度は1日2回にとどまるのに対し、ロールオイスターであれば最大で1日50回に達する。

頻度が多いほどカキの成長スピードは高まる。鈴木はフランスの養殖場を訪ねたときに、「相撲取りと同じ」との説明を受けて腑に落ちたという。

「力士は稽古中にストレスをためますよね。食べられないから。でも、稽古後には目いっぱい食べます。そして寝ます。これによって短期間で体を大きくするのです」

実際、ファームスズキではロールオイスター導入後にカキの成長スピードは顕著に上昇。出荷までの養殖期間は平均すれば半年、環境の良い時期は3~4カ月なのだ。同じ養殖池を使って年2~3回の収穫が可能という計算になる。

カキ養殖業全体の平均(1~2年)と比べるとまさに「オイスター革命」だ。