海外の若者にとってカキ養殖は魅力的

見本市では決まって同じ顔ぶれが集まることから、回数を重ねていくうちに自然と海外の養殖業者と仲良くなっていった。次のようなやり取りを通じて。

「今は冷凍カキの輸出をやっているのだけれども、これからはカキ養殖を始めようと思っていて」
「だったらうちに来てみない? 卵を孵化させてカキの赤ちゃんを作るところから始めないといけないから、いろいろ教えてあげるよ」

そんな好意に甘んじて、鈴木はアメリカやフランス、オーストラリアの養殖業者を次々と訪問し、最先端の養殖技術を貪欲に吸収していった。

写真提供=鈴木隆
フランスの養殖場で

当時を次のように振り返る。

「大いに刺激を受けました。日本のようにいかだで養殖する業者はいないうえ、20~30代の若者が担い手の中心になるんですよ。カキ養殖は若者にとって魅力的なんですね」

そのうえでこう付け加える。

「あちらではみんなが『これは成長産業』と言って目を輝かせます。びっくりでした。なぜ日本と真逆なんだろう──こう思わずにいられなかったです」

写真提供=鈴木隆
カナダの養殖業者と

生態系への影響を抑えたエコな産業

確かに水産養殖は成長産業だ。乱獲や気候変動によって生態系のバランスが崩れ、将来的には水産資源の枯渇が懸念されているなか、サステナビリティ(持続可能性)という点で優れているのだ。

水産養殖は人間が管理する閉鎖システムであり、生態系への影響を最小限に抑えられる。同時に、技術的なイノベーションによって、少ない資源で収穫を増やすなど生産効率の向上も狙える。

日本でもサステナビリティに注目した「養殖革命」の動きがある。代表例は2016年設立のベンチャー企業ウミトロンだ。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を駆使して養殖業の効率化を目指している。

カキ養殖が成長産業であることはデータで裏付けられている。

米調査会社IMRACグループによれば、2023年の市場規模は中国を中心に全世界で730万トンに達しており、2000年と比べて3割以上増加。今後も成長は続き、2032年には870万トンを記録する見通しだ。

主な要因としては、①世界的なシーフード需要の高まり②環境への負荷が少ない養殖手法の普及③ビタミンやミネラルを豊富に含む健康食としての人気④遠隔管理システムや自動選別機などのイノベーション──などが挙げられる。