瀬戸内海の離島で、広島が誇る名産品・カキを独自製法で養殖しているスタートアップ企業がある。目標は「3K(きつい・汚い・危険)」から「新3K(カッコいい・稼げる・革新的)」へと転換し、衰退の一途をたどる水産業を成長産業にすること。そんなことは可能なのか。ジャーナリストの牧野洋さんがリポートする――。(前編/全3回)
漁業大国なのに担い手がいない
3K(きつい・汚い・危険)、担い手不足、衰退産業、環境破壊──。漁業にはネガティブなイメージが付きまとう。
漁業・養殖業の現状を見れば仕方がない。生産量は400万トンを割り込み、ピーク時から7割も減少しているのだ。日本は海に囲まれた漁業大国であるにもかかわらず。
漁村では若い人材が流出し、漁業就業者の4割が65歳以上だ。後継者が見当たらず、「もう体も動かなくなってきた。自分の代でもうおしまいにするしかない」といった声も聞こえてくる。
それだけに、瀬戸内海に浮かぶ大崎上島に足を踏み入れると、別世界にやって来たような気分にさせられる。そこは人口7000人足らずの離島であるというのに、未来型水産業を創出するイノベーションの拠点になっている。
まるでカリフォルニアのビーチハウス
フェリーでなければ渡れない大崎上島。ここに本社を構えているのは、日本で唯一の「クレールオイスター(塩田熟成カキ)」を養殖するファームスズキ(本社・広島県豊田郡)だ。
本社オフィスの前に立つと「ここは海辺のリゾート?」と思わずにいられない。
真っ白にカラーリングされた外壁、錨をモチーフにしたロゴマーク、東京ドーム2個分の養殖池を前にして広がるオープンテラス──。オフィスはまるでカリフォルニアかハワイのビーチハウスのようだ。
その中から姿を現したのは創業者兼社長の鈴木隆(48)だ。笑みを浮かべて「こんにちは! どうぞ中へ」と手招きしている。短髪、白いTシャツ、短パン。ほんのり日焼けしており、気さくで健康的だ。