実家の散らかり具合に驚く息子夫婦

親と子が同居し、否応なく共同生活を営むしかなかった時代であれば、日常のなかで、子どもたちが感知し、対応できた親の老い衰えが、離れて暮らす場合には、感知できないばかりか、親の「子どもに迷惑をかけられない」との思いから、親からは伝えられず、周囲から子に知らされることもない。

そして、どうにもならない状況になって初めて、子どもに連絡が行き、親も子も混乱の渦に巻き込まれる。そんな例が少なくないのである。

「家の中に入って、すごくびっくりした」

私が話を聞いた長寿期夫婦にも、そのような親子関係の方が少なからずあった。そのなかのいくつかを紹介しよう。

まず、87歳の男性OZさんと、87歳の妻のケース。OZさんは息子たちに、自分の病気(がん)のことを、入院が必要になる時点まで伝えておらず、また、妻が鍋などを焦がすようになっていたことも告げていなかったという。

OZさん「この正月は、長男夫婦が来たんですが、そのときも、家の中に入らないで玄関先でちょっとだけ話して帰っていきました。だから、私が入院ということになったとき、家の中に入って、すごくびっくりしたと言っていました。とり散らかっていたので。

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とにかく、自分たち夫婦は、子どもたちに迷惑をかけてはならないと、一生懸命頑張って、二人でやっていこうと思ってきましたから。息子は管理職で忙しいし、嫁さんも働いているので。でも、近所の人が包括に連絡して、息子がやってきて、まあ、こういう形になりましたが」

「子どもたちに迷惑をかけてはならない」とのOZさんの親心が、子どもに実情を知らせ、助けを求める関係をつくることをはばむ一因となっていることがわかる。

なぜ親の異常事態に気づけなかったのか

しかし、親の自宅を訪れながら、子ども夫婦は、「近所の人が包括に連絡する」ほどの窮地を、なぜ感知できなかったのだろうか。何の異常も感じなかったのだろうか。考えれば不思議なことである。

しかし、OZさん親子と同じような家族は少なくない。

60代女性PKさんが姪の立場で関わることになった、叔母夫婦と息子たちの関係もそうだった。

PKさんが、叔母夫婦に深く関わり始めたのは、叔母が83歳、叔父が91歳のとき。叔母夫婦は、若い頃から続ける社会活動に、80歳を過ぎても参加し続け、料理上手の叔母の自慢は「食事づくりも家事もちゃんとしている」だったという。60代の息子2人は、県外に住んでいる。

PKさんは、叔母が77歳の頃、「もの忘れがあるのでは」と感じたことがあったそうだが、「叔父がしっかりしているので大丈夫だろう」、そう思っていたという。