「謝罪する相手が本当に実在するのか」を確認すべき
ここでまず冷静に考えてほしいのは、このお客様が訴訟に持ち込んだところで、鉄道会社側が裁判で負けることは、ほぼあり得ないということです。
この男性も会社の経営をされているので、内心では無理な要求だと分かっていたのではないでしょうか。ただ、怒りの矛先をどこに向けるべきか分からない状態だったのでしょう。
一般クレームのように、丁寧に話を聞き続けることで怒りが収まる可能性も想定できましたが、対応していたスタッフは一計を案じ、次のように伝えました。
「○○様、それはご迷惑をお掛けし、申し訳ございませんでした。今回、ご商談の時間に間に合わなかったのは、○○様がおっしゃる通り、弊社の整備不良に原因があります。そこでご提案なのですが、私共がお客様のご商談先に、弊社の車両故障のせいで、○○様がお約束の時間に間に合わなかったことをご説明に上がります。つきましては、ご商談先とご担当者様の連絡先を教えていただけないでしょうか?」
いかがでしょう。ここまで言われたら、溜飲も下がりませんか?
もちろん、実際に商談先を聞くことができたら、宣言通りお詫びに行きましょう。先方に話を聞いてみたら「破談になったのは、遅刻のせいではなかった」などの真相が分かるかもしれません。
悪意のあるクレームかどうかを見極めることが重要
6W3Hの聞き方を実践すると、お客様のクレームが次のどちらに分類されるのかが明らかになります。
本音ではその賠償を望んでいない(一般クレーム)
具体的な賠償額を持ち出すことで「俺はこんなに怒っているんだ」と表現しているのです。お怒りの原因を丁寧にひもといてください。上手く解消できれば、顧客満足へとつなげることができます。
その賠償を本気で望んでいる(悪意クレーム)
賠償が正当なものかどうかを考えます。不当要求であれば、この時点でお客様対応を切り上げることもできます。実際に裁判になっても、組織側が負けることはほぼないでしょう。
お金をせしめることが目的の悪意クレームであれば、商談先などの情報は決して開示しないはずですし、そもそも商談自体が嘘だという可能性もあります。クレーム対応は見極めが肝心です。特に、「賠償」など、強い言葉でクレームを伝えられた時は、判断が難しいものです。強い言葉に惑わされることなく、お客様からの要求は6W3Hで、しっかり聞き出して事実確認を行いましょう。
一般クレームかハードクレームか、また、ハードクレームなら悪意クレームかどうか、その見極めを真摯に行うことが組織を守ることになるのです。