責任転嫁し、話題を変え、果てはなかったことに

留学生や、駐在員、それに帯同する家族として、是非これらの特殊戦法を早期に理解し、自分の利益を守り、仕事や生活をスムーズに進めてほしい。以下では、代表的な特殊戦法がどのようなものなのか、一つ一つ理解し、それに対するカウンターや心構えを紹介していく。

インド民がよく展開する代表的な言い訳は主に以下のように分類される。

① 責任転嫁:Shift Responsibility
(問題発生の原因を別の所へ持って行く)

② 相殺消去:Cancel out own fault
(あなたの側に落ち度がある別の話題を持ち出して、おあいこを狙う)

③ 話題転換:Shift to another topic
(全く関係ないトピックを説明し始め、論点をうやむやにする)

④ 因果改謬:Elaborate wrong route course
(因果関係のないことを、さも原因・理由かのように使う)

⑤ 解決消去:Solve and Escape
(あくまで非を認めず、問題を即解決して問題が起きていなかったことにする)

いずれの論法も建設的な議論を行うには程遠い論法である。まず第一に、これらの論法の存在と名前を知っておいて、相手がそれを展開した瞬間にあなたが認知することが重要だ。今仕掛けられている論法がどのようなものか認知するだけでも、心に余裕が生まれる。

筆者撮影
インドの屋台飯

負けを認めれば「死と貧困」が迫る環境

具体的な論法をカテゴリーとして認知することで、彼らがそれを展開した際に、「あ、こいつはこの論法を使い始めたぞ」と理解し、「このフレーズをぶつけよう」と自分の中に答えを持っていると、議論で優位に立つことができる。あなたに理があり、真っ当なことを言っているのはこちらだという心構えを持って、インド民の自身満々の態度に臆することなく、あなたの主張を展開していく。

ここで紹介した五つの論法には共通点がある、それは、その目的が自らへの批判を回避することであり、防御に主眼を置いたものであるという点である。これはインドという環境を色濃く反映したものだ。

こちらのコラムでも述べたように、インドの本質は過密と苛烈な競争であり、その中で議論に負けたりして目の前の損を被ることはどうしても避けたいという潜在的なマインドがインド民の心には深く根付いている。論争に勝利することは望ましいが、自分に落ち度がある事象に関して、負けを認めた瞬間に死と貧困が訪れるという怖さが彼らのなかにはふつふつと存在しているように見える。