旅行代理店に電車のチケットの予約を頼んだら…

だからこそ五つの論法には、「自分が負けそうになった場合に、どうにか負けないようにする」という思想が反映されており、結果的に防御的なものになる。もちろん言い訳を展開した結果、信用や信頼などが損なわれて長期的に損を被るかもしれない。しかし、彼らの中ではとにかく短期利益が重要であり、その場で負けないようにすることが重要に映っている。

ここから先は、五つの論法を一つひとつ解説していく。まずは責任転嫁:Shift Responsibility(問題発生の原因を別の所へ持って行く)、の説明とその対処法である。これはインドで非常に多く見られる言い訳の一つで、おおよそ半分以上のケースはこれに当たる。例えば次のようなケースである。

旅行代理店のエージェントに電車のチケットの予約を頼んだが、インド国鉄の予約システムが故障しており、予定していた電車のチケットの申し込みができなかった。エージェントを問い詰めたら、「国鉄の予約システムの故障のせいであり、自分たちのせいではない」と開き直った。

このケースでは、自分が約束通りチケットを予約できなかったミスを、予約システムに責任転嫁している。先方が言っていることは、「自分はしっかり仕事をしたが、予測不能のシステム障害のためにチケットが取れなかったのであって、自分は悪くはない、責任はない(その補償はしかねる)」という主張である。

デリーの駅
筆者撮影
デリーの駅

相手の議論に乗っかるとドツボにハマる

もちろん、このような稚拙な言い訳には幾通りもの指摘ができ、我々の常識で考えれば仕事を舐めているとしかいいようがない言動だ。しかし、この程度のことは平気な顔をして言ってくると思っておいたほうがいい。

さて、この言い訳を聞いてどのようなアプローチをすればいだろうか。ここで最も重要なことは、「些末な議論や具体例に入らずにコンセプトと本来の責任を主張することに徹する」という大原則である。

相手の議論に乗っかる形で、「なぜもっと前広に予約しなかったのか?」というようなやり取りを初めから行うと、ゴールは遠くなる。このような個別の論点をあなたが述べた瞬間に、相手は、この「問い」に答えることで責任を逃れることができると認識し、さらに責任転嫁の言い訳を述べてくる。

インド民は解決法や予防法を考えるのは不得意だが、起こしてしまったトラブルに対する言い訳を考える際には通常の10倍くらいの瞬発力で瞬時に筋の通らない議論を次々に生み出すことができる能力を備えている。これは、どんなに教育レベルが低い肉体労働者や田舎の商人やドライバーでも持っている能力で、異常な力を発揮するので、これに巻き取られると議論の筋道が別の方向に行ってしまう。