「トランプ氏=経済に強い」はいまだに根強い

にもかかわらず、バイデン氏の政策が不評な背景には、復興に伴って発生した激しいインフレがある。40年ぶりの上昇水準に達したインフレを抑えようと連邦準備制度理事会(FRB)が金利を引き上げたことで、家計のクレジットカード負債が増えた。そのため多くの庶民は、物価上昇に賃金が追いつかない状態で、生活はかなり厳しくなった。

現在はインフレも落ち着いたが、高止まりした物価はほとんど下がっておらず、庶民の生活は依然逼迫している。トランプ氏と支持者はそれがバイデン政権の責任であるとし、強く責め立てているのだ。

ある共和党支持者はこう言う。

「トランプ政権の4年間、失業率は史上最低で、株価は最高値だった。彼が大統領だったからだ」

見てきた通り、これは事実ではない。それなのに「トランプ氏=経済に強い」という確固たるイメージがいまだにあるのは、なぜだろうか?

最大の理由は、トランプ氏が前政権で行った大規模な減税にある。2017年、法人税が35%から21%へ大幅に引き下げられたことで大企業の業績は劇的に上がり、株価も上昇した。だから支持者たちは口を揃えて「トランプ時代のほうがよかった」と断言する。

2016年8月31日、アリゾナ州フェニックスでの移民政策演説に臨むドナルド・トランプ氏(写真=Gage Skidmore/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

法外な「対中関税案」が支持されているが…

しかし民主党支持者はこう反論する。

「トランプ減税で恩恵を受けたのは、大企業と富裕層だけ。特に大企業は利益の大幅アップで株価が上昇したが、潤ったのは株を持っているような中間層以上の富裕層のみ。それ以下の人は何もメリットを得ていない。さらにこの減税で財政赤字も膨れ上がった」

さらに、興味深い一言もあった。

「みんなパンデミック前の、インフレもなく希望があった時代を懐かしんでいるだけなんだ」

トランプ氏は第2次政権では、米国内で生産する企業を対象に、法人税率を現行の21%から15%へさらに引き下げると明言している。同時に、外国製品に対する高い関税も公約に掲げた。特に中国製品に対しては60~100%の高い関税、それ以外に対しても10~20%を課すとしている。

「安い外国製品の流入が、アメリカの職を奪っている」というトランプ氏の主張を信じている支持者はこれを歓迎しているが、経済学者は頭から否定的だ。

「関税というのは、輸入する側、つまり最終的には消費者が負担するものだ」。これまでよりも高い関税を払わなければならない場合、輸出する側はそれを売価に転嫁する。つまり関税とは回りまわって消費者が支払うものなのだ。