米国版「100均」が成り立たなくなる

例えば今、アメリカの庶民が1セントでも安い商品を求めて通うダラーストア(日本でいう100均)の多くは中国製品だ。関税が上がれば価格も上がり、高くなりすぎればビジネスとして成り立たなくなるかもしれない。逆に関税が高すぎるからと輸入を減らした場合でも、代わりとなる国内製品の価格が上がるため「いずれにせよ高度なインフレが起こる可能性が高い」と専門家は指摘する。

しかし、ほとんどの人はそこまで考えていないだろう。トランプ氏が「関税はわれわれの仕事を奪った中国への罰則」という言い方でアピールしているからだ。実際には自分たちを罰することになってしまうのに。

そしてもうひとつ、経済政策としてトランプ氏が掲げているのが、化石燃料への徹底的な回帰だ。

「掘れベイビー、もっと掘れ」は支持者の間で最も人気なキャッチフレーズのひとつ。フラッキング(水圧破砕)で一時は世界一のエネルギー産出国の座に君臨したアメリカをもう一度、という夢が込められている。

ハリス氏は富裕層・大企業に歩み寄り

それだけではない。高い関税によるインフレを防ぐためには、国内でのエネルギー生産が不可欠になる。トランプ氏は脱炭素政策に懐疑的で、バイデン政権が進めた大規模な再エネ推進を撤回し、化石燃料を積極的に開発することでガソリンなどの燃料価格を引き下げる方針だ。そうなれば再エネへの切り替えが遅れ、環境汚染と温暖化もさらに進む。ここ数年全米でも進行している夏の異常高温や、猛烈なハリケーン、竜巻による死者も増える一方になるだろう。

一方、ハリス氏はどんな経済政策を打ち出しているのだろうか?

最大の特徴は、一般庶民の生活救済策だ。子供のいる家庭への支援の延長、初めて家を買う人への資金援助、医薬品価格の制定、企業による便乗値上げの規制など生活コストの削減がメインの政策が中心で、有権者から支持されている。

しかしそれ以上に驚きを与えたのが、新たに発表された税制政策だ。これまでバイデン氏が掲げていた最高所得者への大幅な増税を緩和し、富裕層や大企業に対して歩み寄りを見せたのである。

2020年8月11日、デラウェア州ウィルミントンで出馬表明したハリス副大統領
2020年8月11日、デラウェア州ウィルミントンで出馬表明したハリス副大統領(写真=The White House/Executive Office of the President files/Wikimedia Commons