昭和後期から平成初期に人気だったのは「愛」
昭和56年には48年に8位だった恵が1位となっている。「美」の字に限らずミ音の名が人気を得て、語尾ミ音の三音節が典型の一つと化してきた。
なお特定の文字の流行や類似した語感の名が派生・増殖していく傾向は、この時期に限らず男女ともに認められる。
†戦後二音節型とエ・ミ・カ・オリ(昭和57~平成2年)
昭和57年の1位は裕子だが、これが子の付く名の最後の首位となった。この年に2位だった愛が、翌58年から平成2年まで8年連続で1位を占めた(平成2年は彩との同列1位)。愛は昭和53年に8位で初確認されるが、その順位上昇とともに、昭和60年代までに理恵、麻衣、彩、舞、などの二音節型(*1)が徐々にランキングに出現している。
ただし二音節型といっても、かつてのように「お」や「子」を付ける文化はなく、表記も漢字が標準である。つまりかつての二音節型とは全く似て非なるものであるから、先行する由美、美紀などとともに、とりあえず戦後二音節型とでも呼んで区別されねばならない。
この間、昭和48年に7位で初確認される香織が50~63年まで、59年を除き毎年10位内に入っており、昭和62~平成2年(1990)、その語感の派生形らしい沙織がランキング内に入っている。この時期語尾「オリ」ないし「リ」音、語尾か語頭に「香」の字や「カ」音を持つ三音節が人気のある典型的女性名として定着してくる。
(*1)りん、れん、みく、みゆ、りさなど、平仮名二字ないし三字で表記される名前。「りやう(リョウ)、じゆん(ジュン)」などは二字で一音節を表記する拗音(シャ・シュ・ショの類)を含むため三字で二音節である。
平成3年から14年までは「美咲時代」だった
かくして昭和60年代には、恵・美・香などの文字や、エ・ミ・カ・オリの音を持つ二音節・三音節が人気のある女性名の典型となってきた。一方で子の付く名(二音節+「子」)は、昭和60年10位の裕子を最後にランキングの常連からは姿を消す。
以後は特定の芸能人にあやかった桃子や菜々子が時折ランキングに出現するだけとなっている。
†美咲時代と多様化(平成3~14年)
平成3年頃のバブル崩壊、同5年の55年体制の終焉などと奇しくも時を同じくして、女性名も類型に拠らぬ名付けの増加で多様化が進み、従来とは様相が変わっていく。
ランキングは同3年から7年まで美咲が1位で、愛が2位を占め続けた。ただし愛は8年に順位を下げて彩が二位となる。美咲の連続首位も平成9年に途切れるが、19年までは1位~6位以内にあり、26年までしばしば10位以内に入り続けた。
美咲は「美」の字人気の流れを汲むが、語尾キ音三音節の語感は従来の型に嵌らない新種の名でもあった。平成9年以降首位は一定せず、9年は明日香、10年は萌、11年は未来、12年はさくら・優花、13年はさくら、14年には再び美咲が葵と同列一位に上がっている。美咲最盛期の平成3年から14年までを、とりあえず美咲時代とでも呼んで区切っておこう。