「いただきますと」はどう使えばいいか

「こちらの天気図を見ていただきますと、この3日間は晴天が続きそうです」

これは、ある気象予報士の言葉です。文書ではまれですが、話し言葉になると「……いただきますと」は実によく聞かれます。天気予報だけでなく、講座や会議、営業など、何か資料を見せて話を進めるような場面でよく使われます。

そもそも「○○に……ていただく」は「○○に……てもらう」の謙譲語です。「○○」の部分は補語に当たります。例えば「本日は(皆様に)ご来場いただきありがとうございます」には、「皆様」という補語が隠れています。主語は話し手です。話し手が「いただく」とへりくだることで、話し手に恩恵を与える補語「皆様」を高めているわけですね。冒頭の言葉も、これに当てはめて考えてみましょう。

「こちらの天気図を(視聴者の皆様に)見ていただきますと、この3日間は晴天が続きそうです」。天気予報士が自分を低めて、視聴者を高めていることになります。画面の向こうの視聴者に配慮する気持ちは理解できないでもありませんが、へりくだりすぎです。

もっと言えば、2つの文の関連性も妙です。「いただきますと」の「と」は、二つの文をつなぐ接続助詞。「雪がとけると水になる」のように、前の文が次の文の前提条件を示します。

「天気図を視聴者に見てもらったから、3日間は晴天が続く」というのなら、いくらでも天気図を眺めます。しかし、そんなはずはありませんね。

長々と書きましたが、日頃から分かりやすい天気予報を頼りにしている一視聴者としては、見出しの言葉を次のように提案します。「こちらの天気図によれば、この3日間は晴天が続きそうです」「こちらの天気図をご覧ください。この3日間は晴天が続きそうです」どうでしょうか。「いただく」がないほうが、いかにも的中しそうです。

分かっていてもやめられない「させていただく」

「『させていただく』を使いすぎだと言いたいんでしょ。盛りすぎなのは自分たちでも分かっているよ。でもダメだと分かっていても使わないと落ち着かないんだ。『CDを出せました』と言えばアンチから、自力で出せたような顔をするなって言われそうだし、第一応援してくれるファンに対しても失礼な気がするし。それ以外で、丁寧に言う方法なんてあるの?」

タレントやアーティストから直接聞いたわけではありませんが、才能ある賢明な彼らの中にはこう感じている人も多いのではないでしょうか。誹謗中傷が飛び交う現代、ファンや周囲に気配りしすぎて、敬語を盛りすぎてしまうのも無理からぬことかもしれません。

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