ただ、翌3日には、前日の発言について、金融政策の判断に「時間的余裕はある」という植田総裁の認識を念頭においたものだと釈明している。つまり、日銀の独立性に影響を与えるつもりはなく、金融政策の正常化を目指す方向性に変化がないということであろう。

同日、赤沢経済再生担当大臣も、そうした認識を示し、利上げは「タイミングの問題」として否定はしなかった。結局、利上げは容認するが、景気の回復を阻害しない限り、という条件付きであり、株式市場が過度に警戒するほどのものではない、ということだろう。

金融所得課税はトーンダウン

3つ目の誤解、金融所得課税について、石破首相は、早い段階から新NISAやiDeCoを対象外だとしており、課税の目的はいわゆる所得税の「1億円の壁」の打破、つまり超富裕層が対象であった。

所得税は、「累進税率」が採用されているため、所得が多いほど税率も高いはずであるが、実際には年間所得が1億円を超えると税負担率が下がっている。理由は単純で、株式の売却益や配当収入などの金融所得は定率(現在は20.315%)で低く、趙富裕者層ほど金融所得の割合が多いためでる。

要するに、石破首相が考えていた金融所得課税の対象は、年間所得1億円以上の超富裕層に限られ、大多数の個人や法人は対象とならない。しかしながら、一部からの強い反対もあり、それすらも最近はトーンダウンした印象である。事実上は封印とみて良いだろう。

写真=iStock.com/Wachiwit
※写真はイメージです

法人税増税には慎重姿勢

4つ目の誤解、法人税増税については、「政策集」の中で「企業の投資意欲を刺激する、メリハリある法人税体系の構築を目指す」とある。

現時点では、それ以上の詳細は不明であるが、1つの考え方として、投資減税を実施し、その財源とするため内部留保課税などで特定の法人課税を強化(増税)する、という方向性があろう。

ただ、法人税は、名目成長率が高まれば、所得税や消費税よりも速いペースで増えるという特徴があり、デフレから脱却すれば、かなりの自然増が期待できる。OECDが試算した税収の名目GDPに対する弾力性(名目GDPが1%増えた場合、税収が何%増えるかを示したもの)を見ると、所得税の1.05、消費税の1.58に対して、法人税は2.33と高い(図表2)。

この数字を用い、仮に来年度の名目GDP成長率を3%として、所得税、消費税、法人税がどの程度増えるか試算すると、所得税は0.5兆円、消費税は1.1兆円、合わせて1.6兆円余り増えるが、法人税はほぼそれに匹敵する1.5兆円も増加する。

そもそも、所得税の自然増は賃上げによるところが大きく、来年度も今年度に匹敵する大幅な賃上げが期待される中、企業の賃上げ気運に水を差さない配慮も必要となろう。そう考えると、法人税率を引き上げる形での全面的な増税は、検討すること自体、慎重かつ現実的に進められるのではないか。