「高市政権」で高まっていたマーケットの期待
すなわち、総裁選10日前の9月17日まで遡ると、ドル円相場は1ドル=140円台、日経平均株価は3万6000円台であり、9月30日よりも円高株安水準であった。
その後、政策リーフレット配布の効果もあって高市氏優勢との認識が広がるにつれて、利上げに否定的な姿勢が材料視され円安が進行した。実際に、高市氏は9月23日のインターネット番組で「金利を今、上げるのはあほやと思う」と利上げを強く否定している。
さらに、持論であるプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標の否定や、防衛費増額の財源として建設国債を認めるべきなど、積極財政や目先の負担抑制を志向する姿勢が株価を押し上げた。そして、高市氏の敗退とともに、それまでの円安株高が一気に巻き戻されたわけである。
ただ、石破新総裁の誕生後も、為替相場、株式市場とも日々大きく変動しており、落ち着く様子はない。その背景には、大統領選を控えた米国の景気や金融政策の見通しが揺れ動いていることもあるが、石破新政権の経済政策運営に対する評価が定まらないことの影響も大きいだろう。
石破氏の経済政策に対する4つの誤解
金融市場、特に株式市場が石破新政権の経済財政政策に関して懸念している点は、主に①緊縮財政、②利上げ容認、③金融所得課税、④法人税増税の4点であろう。
以下、それぞれについて、総裁選にあたってまとめられた「政策集」や最近の発言などから、石破首相の本心を読み解きたい。
まず、緊縮財政については、石破首相が従前から示していた財政規律を重視する姿勢に加え、政策集にも示された「財政状況の改善」という方針が独り歩きし、半ば意図的に誇張されたのではないかと考えられる。
「政策集」の中の【経済・財政】の章には、岸田政権の方針を踏襲し、「経済あっての財政」という考え方を基本とすることが明示されている。そして、その下で「デフレ脱却最優先の経済・財政運営」を行い、成長分野への思い切った投資による「持続可能な安定成長を実現」しつつ、「財政状況の改善」を進めるとしている。
つまり、まず景気を回復させ、デフレから完全に脱却したうえで、経済成長と財政健全化の両立を目指すという順番であり、景気の悪化を覚悟してまで緊縮財政を目指すなど全くあり得ない話である。
さらに言えば、デフレからの完全脱却を「3年間」で実現するとしているが、すでに完全脱却の目前だとの現状認識をしている筆者としては、石破首相が思いのほか景気の現状評価に慎重だという印象を受ける。そのため、石破政権下では、今後も当分の間、拡張気味の財政政策が継続される可能性が高いと考えられる。