「政治とカネ隠し政権」が誕生する寸前だった

旧安倍派の後押しを受けた高市が急速に支持を伸ばす。SNSなどでの強力な発信力もあり、安倍政権時代に当選した3期、4期のボリューム層が、高市に「安倍政治の復活」を見る。そして、勝ち馬に乗る戦法で組閣と党人事を意のままに操ってきた麻生、茂木が高市に乗り換える。高市は麻生に対して「なんでも政策は呑みます」と提案し、支持を迫ったという。

実際、高市は自身の公約を修正していた。副総理ポストを狙う麻生はその馬に乗った。そもそも旧安倍派の政治とカネ問題が国民の信頼失墜を招いたというのに、反省の見られない、醜悪な光景であった。

しかし唯一の救いというべきか、超保守政権の誕生を警戒し、党の刷新を重視した議員が相当数いたのだろう。また高市首相が誕生すれば、中道左派の野田佳彦率いる立憲民主党に保守層を食われてしまうというリスクヘッジも働いたはずだ。ふたを開けてみれば、その差はわずか16票。まさに、「政治とカネ隠し政権」が誕生する寸前のところをギリギリで回避したかのような決選投票の動きであった。

「経済オンチ」石破氏の節操のなさ

自民党内の亀裂の深さは、今回の内閣人事に如実に表れている。冒頭で「着の身着のまま家を飛び出し、そのまま大臣になった」と表現したが、準備不足なうえに石破自身の人脈の少なさも相まって、完全に自民党内が「身内か敵か」に分断されてしまったように見える。

裏金問題で処分された議員は起用されておらず、安倍派からの入閣もなし。つまり、高市一派からはだれも入閣しなかったことになる。高市自身も総務会長を打診されたが固辞した。支援した麻生派からは離脱者も含めて計3人が入閣、党執行部では最高顧問に麻生太郎、鈴木俊一前財務相が総務会長に就任した。今後、高市は非主流派の道を歩むことになるが、石破内閣が短命とみるや、次期総裁の座を狙いにいくだろう。

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さらに暗澹たる気持ちにさせられるのは、経済に対して興味の薄い石破の節操のなさである。岸田前首相の支援を取りつけられたことで、アベノミクスの修正という岸田の政策をあっさりと引き継いだ。あまりにもあっさりしすぎている。そこが経済オンチと呼ばれるゆえんでもある。

わたしは先日上梓した『文藝春秋と政権構想』(講談社)で、アベノミクスの最大の問題は「ゼロ金利を長く続けすぎた」点にあると述べた。「ゼロ金利政策」は、1999年2月、バブル崩壊・金融危機を受けて速水総裁時代に始まった。二度の一時的な解除をのぞけば四半世紀もの間、われわれは銀行預金をしても金利はほとんど付かないし、住宅や自動車ローンをはじめ借金をしても金利負担が少ない、歴史上きわめて稀な世界を生きてきた。