名目GDPでドイツに抜かれ、「貧乏な国」に

その結果、日本経済はどうなったか。アベノミクス期間(2013年から2020年)に限っても、日本の名目GDP(カッコ内はドルベースの名目GDP)は、508.7兆円(5.2兆ドル)から539.8兆円(5.1兆ドル)にしか増えず、ドイツに抜かれた。インドも迫ってきている。ひとり当たりGDP(USドル)も世界27位から世界24位と低迷している。一人当たり労働生産性からみても2022年の統計(ILO)で、世界で45位と生産性の落ち込みも相当に激しい。「豊かな国」とは言えなくなってきたのである。

「ゼロ金利」という「極端な政策」を取り続け、ぬるま湯に浸かりすぎた結果、われわれは「構造改革」といった険しい道を避けて歩いてきてしまったからである。〈なぜ日本はここまで貧乏な国になったのか…安倍晋三氏から相談を受けていた筆者が思う「アベノミクスの壮大な失敗」参照〉

そこからの軌道修正を図ったのが岸田前首相であった。異次元金融緩和を続けすぎた結果日本銀行のバランスシートは痛み、インフレが襲っても機動的な金利政策をとることができなくなっていた。日銀の植田和男総裁と薄氷を踏むように、きわめて慎重かつ緻密にゼロ金利からの転換を進めていった。この一本道を両脇の崖に堕ちないようにコントロールしていくのは容易ではない。

「アジア版NATO創設」の危うさ

石破は金融所得課税の強化や消費税、法人税の引き上げなどに言及しているが、経済官庁からは「マクロ経済のことを何も知らないのでは」との声が聞かれる。「石破ショック」で冷や水を浴びせた株式市場も、それを見抜いているだろう。

鈴木洋嗣『文藝春秋と政権構想』(講談社)
鈴木洋嗣『文藝春秋と政権構想』(講談社)

もう一つ指摘しておかなければならないのは、石破の外交・安保政策の危うさである。石破が掲げる「アジア版NATO」の創設。これは安全保障政策に通じる石破が唯一独自に提唱するもので、加盟するアメリカと欧州の計32カ国のうち、一国でも攻撃を受ければ機構全体で集団的自衛権を発動するという北大西洋条約機構の仕組みを参考にしている。文字通り軍事同盟なのである。

問題点を挙げればキリがないが、まず、仮想敵をどうするのか。NATOの仮想敵がロシアなら、アジア版は中国だとでもいうのだろうか。言うまでもなく中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、外交・経済の両面で切っても切れない関係にある。むろん日本だけでなく、アジアのほとんどの国が中国をお得意様としており、ASEANは加盟10カ国がすべて一帯一路構想に加わっている。