新しい米大統領に会わせてもらえない可能性も

中国は世界一の海洋国家を目指し、一帯一路の要所で港湾や運河の整備に巨額の財政支援を行っている。中国依存が進むアジアで、いったいどこの国が報復を覚悟の上で中国と手を切り、この構想に賛同してくれるというのか? さらにいえば日本は中国だけでなく、ロシアとも国境を接しているのだ。「アジア版NATO」の提唱は、ウクライナ戦争でNATOから制裁を受けているロシアを刺激することにもなりかねない。

当然ながら、アジア版NATOは外務省内での評判がすこぶる悪い。論外という声も聞こえてくる。それだけでなく、石破が意欲を示している「日米地位協定の改定」についてもかなり否定的である。

日米地位協定では、米軍兵士が公務中に日本で起こした事件、事故に関しては米国側に第一次裁判権を定めている。婦女暴行事件などでも日本の法律が適用されない場合があり、たびたび問題視されてきた。わたしもできるなら改定したほうがいいと考える。しかしながらこちらもアジア版NATO同様、無理筋というのが外務省・防衛省の本音である。

昨年来、中国軍とロシア軍による領空侵犯が相次ぎ、2023年に航空自衛隊の戦闘機が行った緊急発進は669回にもおよぶ。台湾有事も常に念頭に置かなければならない。

台湾地図と中国空軍の攻撃コンセプト
写真=iStock.com/Tanaonte
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そのような緊迫した状況下で、米国の庇護下にある日本がいまこのタイミングで日米地位協定の改定など議論できるのだろうか。下手を打つと、11月に決まる新大統領に会わせてもらえない可能性すらあると思うのだが。

自民党は石破体制で選挙に勝てるのか?

こうしてみると、石破は干されていた期間が長かったせいか、長年温めてきた持論をタンスの奥底から引っ張り出しているように見える。陣立ての表現でいえば、「シーズン違いの服を着ている」ような、ちぐはぐさがあるのだ。

石破首相は9日にも衆議院を解散する。首相就任から8日後の解散、26日後の投開票は戦後最短である。石破体制の選挙はどうなるのか。わたしは、9日に行われる党首討論が命運を握ると考えている。

「政治とカネ」の問題で徹底的に追及されるだろう。さらに、これまで指摘してきたように、石破のアキレス腱は経済・財政政策に尽きる。対して立民の野田代表は財政政策に通じており、野党転落後も財政金融委員会に出席するなど勉強家として知られる。

長らく表舞台に出ていなかった石破と比べ、野党第一党としてつねに論戦の場にいた野田のほうが巧者であり、党首討論では経済に疎い石破に野田が切り込み、過去の発言との整合性を追及するような構図になるであろう。「経済政策」と「政治とカネ」問題で、石破がボロを出せば、内閣支持率を下げた状態で選挙戦に突入していくことは避けられない。そうなれば、自民の単独過半数割れ、ひょっとすると自公での過半数割れも招きかねない。