「身内在庫一掃内閣」に株式市場も大混乱

譬えるなら、「着の身着のまま家を飛び出し、そのまま大臣になった」とでもいえようか。

10月1日に発足した石破茂内閣の顔ぶれである。

閣内に留まった林芳正官房長官(留任)と加藤勝信財務相(前厚生労働相)を除けば、共に党内野党的な立場だった村上誠一郎などの数少ない身内と、勝利に貢献した旧岸田派、旧森山派からの起用が目立つ。「閣僚人事は総理の表現」といわれるが、10年もの間干されてきた、食い詰めた浪人仲間をポストに就けただけ。残念ながら実力本位、適材適所とはとてもいえない、急ごしらえの「身内在庫一掃内閣」である。

石破首相の誕生から、株式市場は不安定な状態が続いている。就任後初の取引となった9月30日の日経平均株価は前週末終値に比べて一時1800円超下げた。そこから大幅に反発し、10月3日には上げ幅が一時1000円を超えた。総裁選の告示前は利上げに肯定的な立場をとっていたが、就任後は発言を翻しており、「いったいどっちなんだ」という株式市場の叫びが聞こえるようだ。

記者団の質問に答える石破首相
写真=時事通信フォト
記者団の質問に答える石破茂首相=2024年10月7日午前、首相官邸

なぜ出世競争にやぶれた人間が総裁に?

「自民党はなぜ石破を新総裁に選んだのか」。そう問われれば、“消去法”だったというのが党議員の偽らざる本音だろう。石破は2008年に総裁選に初出馬して以降、安倍晋三の仇敵として長い間中枢から外されていた。民間企業でいえば、出世競争にやぶれて関連会社の社長に左遷された人間が、5度目の挑戦で本社の副社長や専務をおさえてグループ全体の社長に就任するようなものである。

石破首相誕生の背景には何があったのか。それを説明するにはまず、決選投票で石破と最後まで争った高市早苗に言及せねばなるまい。高市勢力の台頭こそ、現在の自民党の弱体化、凋落ぶりを象徴しているからである。

安倍の薫陶を長年受けてきた高市は、総裁選の争点に「アベノミクスの継承」を掲げた。保守色が強く本来なら議員の支持はそう広がらないはずだが、1回目の投票では小泉進次郎に次ぐ72票の議員票を獲得した。党員票では石破と1票差でトップに立ち、日本の憲政史上初めて女性首相誕生か、と色めき立った。

前回の2021年総裁選でも、高市は1回目の投票で河野太郎を上回る議員票を獲得している。コア層に受ける高市がなぜこれほどの力を持っているのか。ここに自民党の脆弱性があると考えている。