99.7%を占める中小企業に過保護すぎる?

(5)非効率企業も守られる、産業保護政策

1963年の「中小企業基本法」制定以来、わが国では中小企業保護政策に莫大な税金が費やされてきた。法人税率が低めに設定されていたり、赤字でも延命しやすく、接待交際費についても課税の特例があったりするなど、税制面でもさまざまな優遇措置が用意されている。

バブル経済崩壊のタイミングでは、銀行は不良債権の顕在化を先送りし、共倒れを防ぐために「追い貸し」や「金利減免」をおこなったし、2008年のリーマンショック時には当時の民主党政権が「金融円滑化法」を制定。借入れ条件を緩和したり、返済に一定の猶予期間を与えたりすることで、中小企業の資金繰りをサポートした。

そして先般のコロナ禍においては、政府主導で莫大な補助金と、実質無利子・無担保で融資する、いわゆる「ゼロゼロ融資」を提供するなど、中小企業の延命策は脈々と継続されているのだ。

それもこれも、わが国の企業全体の99.7%を中小企業が占め、中小企業で働く従業員数は全体の約70%と、日本の経済も雇用も中小企業によって支えられているからに他ならない。

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普通なら存続できない企業も生き残っている

たしかに、これらの対応は草の根レベルで雇用を守っている中小企業を下支えするのに役立ったし、金融危機や天災に見舞われた際には、倒産によるさらなる危機の連鎖や、失業者の発生を予防する効果もあったことだろう。

一方で、手厚すぎる保護政策によって、利益も創出できず、従業員に充分な給料も払えない、生産性の低い産業や企業を温存させることに繋がり、日本経済の長期低迷をもたらす一因となったとも考えられる。

わが国では大企業に比べて中小企業の賃金水準は低い。令和5年度版厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、企業規模別の賃金格差は大企業を100とした場合、中企業は90.0、小企業は85.0となっている。

すなわち、さほど儲からず、高い給料も払えない中小企業を守り続けることで、そこで働く人たちの雇用は守れる一方で、低い給与水準もまた維持されてしまう、という構造問題が存在するのだ。

赤字で事業を継続するのがやっとという中小企業が、満足な賃上げなどできるはずがない。政府として賃上げを目指すならば、経済状況を改善するのみならず、生産性の低い中小企業が適切に淘汰される仕組みや、アルバイトやパートタイマーの「働き控え」の原因となる「年収の壁」見直し、社会保険料率の低下など、思い切った構造改革が必須であろう。