往々にして学校のように科目ごとのカリキュラムを与えること自体が障害になっていたことに気づいたロイド氏。つまり大人から「この時間はこれをやります」と細分化されたものを押しつけられると、あれをやったりこれをやったりと、自分なりに旅する中で見つけていく、本来人間に備わっている学習機能や好奇心が阻まれてしまうというのだ。

とはいえ、まったく自主性に任せたわけではない。基礎的なスキルや、おさえておくべきトピックスは夫婦で分担して教え、できないことは専門家に任せた。また理科の内容を演劇仕立てで教えるなど、教え方にも工夫を凝らした。

大好きなペンギンを核に、好奇心の赴くままに学び、知識を得る喜びを再び獲得した娘のために、ロイド氏は1年間休職し、キャンピングカーでヨーロッパ各国を巡る旅に出る。その途中でまた、思いもよらなかった面白い発見に出合う。

「スペインのメリダという町の博物館に行った時のこと。展示内容で私の知らないことがあったのですが、そのことに娘は非常に驚いて『パパ、そんなことも知らないの!?』と大興奮。それからは博物館じゅうを走り回って、私の知らないこと探しを始めました。子供というのは、自分が大人の知らないことを発見することにすごく喜びを感じ、それがさらに学ぶ動機になるんですね。そのときに初めて私は、教える側の私が答えを持っていないほうがベターなのだと悟りました」

こういった経験を目の当たりにするたび、ロイド氏は自分が娘に立てたカリキュラムが正しいのか、試験を受けさせなくて大丈夫か、といった不安がなくなったという。

多くのキャンパーが集まる食器洗い場は、格好の情報交換の場だったが、ローマのチベル川ではたまたまそこに誰もいなかった。そのとき、ロイド氏は空を見上げ「鳥とでも話せたら」と思いながら、ふと視線を下に落とした。

「何げなく地面を見て、そういえば地球は生まれて何年ぐらいたっているんだろう、と思ったんです。当時私は36歳で、大学では歴史を専攻し、サイエンス記者でもあった。それなのに、地球が何歳なのか、36年間知らないできた。これはやっぱり勉強の仕方のせいだと感じたんです。科目ごとに学んでいるので、断片的で、かなり抜け落ちている。全体的に流れるストーリーを教わっていないからだということに気づきました」