裁判所「集団検診には限界がある」

判決文には、集団で行う健康診断やがん検診で、見逃しがあっても仕方がない、と受け取れる内容が記されていた。

「短時間で大量の読影を行う集団検診には限界がある」「人間ドックを受検する選択肢もあった」「定期健康診断の読影にダブルチェックの義務を課するのは困難」(判決文から抜粋・要約)

肺がんを見逃された人が勝訴した判決もあるが、「集団検診には限界がある」と裁判所に一蹴される場合もあることは覚えておきたい。

つまり、集団検診は「命の保証」をしてくれるわけではないのだ。

肺がんを早期発見できる「低線量CT検査」

現時点で、肺がんを早期に発見する最適な方法は、CT検査の一択といえるだろう。

CTとはComputed Tomography(コンピュータ断層撮影)の略称で、人の体を「らせん状」に輪切りしたX線の画像をコンピュータで再構成したものだ。前出の長尾医師は、長年にわたって肺がん検診にCTの導入を提案してきた。

筆者提供
胸部を輪切り状に撮影したCT画像のひとつ(*患者本人の掲載許諾済み)

「CTのメリットは、胴体を輪切り状に撮影するので、“死角”がないことです。だから早期の小さな肺がんも発見できます。アメリカでは喫煙者を対象にしたCT検査で、死亡率が20%減少したという研究が公表されて、公的ながん検診にCTが導入されました。デメリットは、X線の被曝量が多いことです」

胸部X線検査の被曝量「0.06mSv(ミリシーベルト)」に対して、一般的な診察で使用するCTの被曝量は「5〜30mSv」と桁違いに多い。毎年の検診で大量に被曝してしまうと、発がんリスクが高くなるという研究もある。

そこでX線の被曝量を「約1mSv」に下げた低線量CT検査が、一部の肺がん検診で使われるようになった。解像度は放射線量に比例するため、画像は粗くなるが、約1cmのがんを見つけることは十分可能だという。低線量CTの肺がんの発見率は、胸部X線検査の4倍という研究もある。

費用はX線検査が2千円前後、低線量CT検査は約1万円前後。約5倍の差がある。

低線量CT検査が、胸部X線検査よりも早期発見に有利であることは、がん治療に関わる臨床医らが20年以上前から指摘していた。

日本は、世界で最もCT装置が多い国と言われている。したがって、X線検査から低線量CT検査に切り替えることは、十分に可能なはずだ。

しかし、国の肺がん検診で推奨されているのは、胸部X線検査のみ。低線量CT検査は「死亡率減少効果を示す証拠が不十分のため、対策型検診として実施することは勧められない」としている。