骨や臓器が“死角”となる「かくれんぼ肺がん」

なぜ、胸部X線検査で、肺がんの見逃しが頻繁に起きるのか?

原因は主に2つ。胸部X線に特有の“死角”と、画像から肺がんの疑い箇所を拾い上げる“読影”でのヒューマンエラーだ。まず、河野医師が“死角”について解説する。

「胸部X線検査は、正面から1方向で撮影するので、胸から背中までの骨や臓器が重なって写ります。肺と重なった肋骨、鎖骨、心臓、大動脈などが“死角”になり、そこにできた早期の小さな“がん”は、X線の画像に写らない。

写ったとしても見えにくいので、“読影”で見逃されてしまうのでしょう。よほど運が良くなければ、X線検査で早期の肺がんは見つからない、と私は思います」

筆者提供
【画像3】胸部X線の画像では、肺と骨や臓器が重なって”死角”ができる

画像3をご覧いただきたい。X線画像に骨や内臓は白い影として写るが、がんも同様に白く写る。肺と骨や内臓が重なって“死角”となる面積は、肺の3分の1以上。

すっぽりと“死角”に隠れてしまう早期の肺がんを、検診関係者は「かくれんぼ肺がん」と呼んでいる。

医師が最短7秒で“読影”している実態

見逃しが起きるもう一つの原因が“読影”だ。職場などで撮影した大量の胸部X線の画像は、後日にまとめて医師が、病変を見つける“読影”を行う。

厚労省の研究班が行った調査によると、1時間あたりの読影枚数は、フィルムの場合は「300枚〜500枚」、デジタルでは「100枚〜200枚」と回答した検診団体が多かった。

1人分の読影にかける平均時間は、最大で36秒、最も短いと約7秒しかない計算だ。「熟練の医師なら短時間で病変を拾い上げることは可能」と言われているが、実際はこの“読影”での見逃しが頻繁に起きている。

東京都内の学校教師だった男性は、職場で行われた健康診断の胸部X線検査で、約7cmの肺がんが見つかった。健康診断は毎年受けていたと男性から聞いた主治医は、過去のX線画像を取り寄せた。

「驚きました。思わずこれは今年の間違いじゃないの? と言いましたよ。だって約6cmのがんが、はっきりと写っていたからです。これを見逃した医師には責任があると思いますね」(男性の主治医)

さらに2年前のX線画像にも、がんの影があった。肺がん検診では、見逃しなどのヒューマンエラー対策として、2人の医師が別々に読影を行う、ダブルチェックが必要とされている。だが、この医療機関ではダブルチェックをしていなかった。