「唯一無二の存在」に固定ファンが付いていた

前述の「1.低価格の維持」は、競争の激しい現代においては、必ずしも賢明な戦略とは言えない。しかし、値上げの際に「企業努力をしていない」と消費者から見なされると、反発を招いてしまう。コスト削減の努力はもちろん重要だが、付加価値という点でも、企業努力を行っていることを顧客に示していくことが求められる。

特に重要なのは2、3であるが、この2つの要素は裏表の関係にある。「スナック菓子」「アイスキャンディー」というカテゴリーで見ると、競合商品は存在する。ただし、多くの顧客にとって「ガリガリ君」「うまい棒」というのは、唯一無二の存在で、指名買いするものだ。

筆者自身も、いまでも両商品ともによく買うのだが、他の商品と比較することなく、迷わずに購入している。同一価格帯の類似商品が店頭に並んでいないこともあるが、並んでいても、学生時代から長きにわたって親しんできた味とブランドイメージから、他の商品に手を出そうとは思わないのだ。

「うまい棒」や「ガリガリ君」は、誰でも購入できる低価格で長きに渡って提供されてきた商品だが、多くの人々が子供の頃から食べてきただけでなく、大人になってからも食べ続けられるような、親しみのあるブランドであり、価格以上の価値を生んでいる。そこが両商品の他商品にない「付加価値」と言えるだろう。

顧客が愛着を持つ商品の値上げは受け入れられる

こうしたポジションを築けるのは、歴史がある商品、サービスに限らない。

例えば、2015年に日本に上陸した動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」は、2018年に月額料金をベーシックプラン650円→800円、スタンダードプラン950円→1200円、プレミアムプラン1450円→1800円と早々に値上げをしたのだが、利用者からは温かく受け入れられている。当時のSNS上の声を見ても、「これまでが安すぎた」「これからも契約を続ける」という声が優勢だった。

「Netflix」はその後も何度か値上げを含む価格改定を行っているが、その間に日本独自のコンテンツを拡充するなどして、価格に見合った付加価値を提供しており、利用者にとって唯一無二の動画配信サービスとして受容されている。

値上げしても顧客離れを起こさないためには、顧客が商品やサービスに対して強い「愛着」を持っているか、企業が値上げに見合った「付加価値」を提供できているかが重要になる。

両者ともに実現できているのが、東京ディズニーリゾートだ。同施設のチケット価格は、開園当初の1983年は3900円だった。その後、段階的に値上げをし、現在は来園日や季節によって料金は変動するものの、最高で1万円を超える金額となっている。

ディズニーリゾートは固定ファンを抱えている。加えて、多額の設備投資により、新エリアや新アトラクションを開発しており、新たな価値を創出し続けている。最近は、若者のディズニー離れが進んでいると言われているが、顧客単価を上げ、混雑回避をしたほうが顧客の体験価値が高まり、集積性も高まる可能性が高い。

写真=iStock.com/MonicaNinker
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