「値上げ」の根拠を正直に説明し、誠実な態度で伝えること
「うまい棒」「ガリガリ君」の話題に戻ろう。
「ガリガリ君」は2回の値上げの際に、赤城乳業の会長・社長をはじめ社員一同が、神妙に頭を下げる「謝罪広告」を展開している。2016年の広告は、SNS上で賞賛を浴びただけでなく、多数の広告賞を受賞している。さらに、日本のみでなく、米ニューヨークタイムズで記事として取り上げられ、海を越えて話題になった。
実は、これは単なる謝罪広告ではなく、「ネタ」として話題化することを狙って企画されたことが明かされている。
一方の「うまい棒」は、2022年に「42年間、ありがとう。うまい棒は12円(税抜)へ。」という、「感謝広告」を展開している。この広告では、値上げの理由とともに、企業としての「思い」が語られていた。
「ガリガリ君」の広告も、「うまい棒」の広告も、誠実な企業態度に賞賛の声が寄せられる結果となっている。
2024年の値上げはリリース配信とその文章を公式SNSアカウントから発信するに留まっており、広告出稿はされていない。しかしながら、SNS上で多くの応援のメッセージが寄せられている。
価格を上げずに量を減らしたり、品質を下げたりする「ステルス値上げ」を行う企業も少なからずあるが、そうした対応はすぐにネット上で広がって悪評を生んでしまい、逆効果であることが多い。
「価格改定」といった言葉でお茶を濁し、値上げしたことを曖昧に伝えようとするのも同様である。
値上げの告知は、正直でわかりやすくあるべきであるし、ちゃんと理由を説明しつつ、企業としての思いをしっかり伝えれば、大半の消費者は理解してくれるものだ。
炎上した楽天モバイル「0円プラン廃止」
マーケティング論の基本概念として「4P」がある。Price(価格戦略)、Promotion(販促戦略)、Place(流通戦略)、Product(製品戦略)の頭文字を取ったものだが、Price、つまり価格戦略はその一要素を占めている。
価格戦略は、一見シンプルなようで意外に難しく、一筋縄ではいかない。
これまで見てきたように、値上げで賞賛された事例もあるが、批判を浴びるケースのほうが多い。
例えば、2022年に楽天モバイルが「月額0円」の料金プランを廃止し、SNS上で炎上が起きた。これは、月間のデータ利用料が1ギガバイト以下であれば無料だったものを、3ギガバイト以下の利用料を1078円に改定するものだった。
「うまい棒」や「ガリガリ君」のように、「これまで無料で使わせてくれてありがとう」「今後も使い続けます」といった声は上がらなかったのだ。
三木谷会長は決算会見で「ぶっちゃけ、ゼロ円で使い続けられても困る」と本音を吐露した。無料であったから楽天モバイルを契約していた顧客も多かったと思われるし、他社に乗り換えるにはハードルも高い。
楽天モバイル側にとっては、顧客を囲い込むための戦略だったのが、顧客側にしてみると「タダだから使っていただけ」であり、企業と顧客に認識のギャップがあったのだ。値上げをして叩かれるのは必然であったと言える。