難波副知事の「迫真の演技」に釣られた新聞各社

2019年9月20日、地質構造・水資源専門部会の森下祐一・部会長(静岡大学客員教授)とJR東海との意見交換会が開かれた。

筆者撮影
2019年9月20日のリニア問題意見交換会

JR東海が、山梨県側から上向きで掘削する工事中に、湧水が県外流出することを説明していると、オブザーバー参加していた難波喬司副知事(現静岡市長)が突然、手を挙げてJR東海の説明をさえぎった。

そこで、難波副知事は「全量戻せないと言ったが、これを認めるわけにはいかない。流域の利水者は納得できない。いまの発言は看過できない」などと激しく反発した。

その後の囲み取材で、難波副知事は「湧水全量が返せないことが明らかになった」と、まるで初めて、山梨・長野県境の工事に湧水が流出することを知ったかのような発言を繰り返した。

これでは、JR東海が「全量戻し」という“公約”を破ったかのような発言に聞こえても仕方なかった。

翌日の9月21日付中日新聞、静岡新聞とも1面トップ記事で、「JR東海は湧水全量戻しせず」「湧水全量戻し一定期間は困難」「県反発」などの大見出しで内容を詳細に伝えた。

読売新聞、日経新聞など中央紙も全く同じ内容を地方版で伝えている。

JR東海は以前から、県専門部会で山梨・長野県境の工事期間中に湧水が流出することを説明していた。

それにもかかわらず、難波副知事の発言を信じて、新聞各紙はJR東海の「全量戻し」ができないことが初めて明らかになったと報道した。

川勝知事・難波副知事の「連係プレー」

極め付きは、その2日後の知事定例会見だった。

川勝知事は「湧水全量を戻すことを技術的に解決できなければ掘ることはできない」「全量戻しがJR東海との約束だ」「静岡県の水一滴でも県外流出することは容認できない」などと述べた。

ここで、川勝知事は「水一滴も県外流出を許可できない」と初めて宣言した。

難波副知事と川勝知事の見事な連係プレーが功を奏したのだろう。

テレビ、新聞は川勝知事の「水一滴の全量戻し」宣言を大きく伝えた。

これで、毎秒2トン減少に対する「全量戻し」から、金子社長の約束を根拠にした新たな「全量戻し」の議論が始まったのだ。