日持ちしない食品でも1年以上保存できる

「豆腐以外にも、牛乳、パン、惣菜和食(さばの味噌煮や筑前煮、ハンバーグ、おでんなど)などのロングライフ食品がありますね」

と、管理栄養士の望月理恵子氏が説明する。

「食品の加工や容器包装の技術進歩により、通常は日持ちしない牛乳や豆腐のような食品にも、常温で数カ月から1年以上保存できるものが開発されています。ロングライフ食品の中にはやや割高なものもありますが、滅菌状態で製造されているので添加物もそれほど必要なく、安心して食べられるところが魅力ですね。また密閉の際に殺菌する技術が高まったので、食品の細胞を破壊せず、昔より食感も良くなっています」

慶應義塾大学医学部の井上浩義教授によると、世界では食品の殺菌方法として燻蒸殺菌や高温高圧殺菌、そして放射線照射が一般的という。日本ではじゃがいもの芽止め以外の食品への放射線照射は食品衛生法で禁じられているが、世界では肉や果実、穀物など生鮮食品に放射線を当てて殺菌滅菌することで、消費期限を延ばしている。

「日本は国土面積が狭いですし、ものすごく遠くまで運ぶ必要がないですから、放射線施設を備えるよりも、コールド輸送で済ませるやり方がメイン。もしくは牛乳のように高温殺菌ですね。ロングライフ牛乳の殺菌時間は通常の牛乳と同じ1〜3秒ですが、殺菌温度は一般的な120〜130度より10〜20度高い。それと容器がバリア製のある特殊な容器にしているので、常温で長く持ちます」(井上教授)

ロングライフ牛乳の原料は通常の牛乳と同じで保存料が入っているわけではない。しかし「おいしくない」という声をよく聞く。「超高温殺菌によって牛乳に含まれるタンパク質が変性してしまうため」という指摘がされるが、井上教授は「そうとは限らない」と言う。

「私の感想ですが、酪農王国といわれるスイスやニュージーランドで牛乳を飲んでも、あまりおいしく感じません。それは牛がエサとして牧草のみを食べているからだと思うのです。日本ではトウモロコシなども含めた複合飼料がメインですよね。だから日本人は日頃から牛乳を飲むときに、トウモロコシの風味を感じていて、それがロングライフ牛乳だと香りが減ってしまうため『おいしくない』と感じるのではないでしょうか。私はロングライフ牛乳を自宅に常備して、毎日おいしく飲んでいます」

ロングライフ牛乳は200ミリリットル単位で販売されている商品が多い。外出中に災害が発生することを考え「持ち歩き用品」といった役割も果たせる。

それでは「栄養価」についてはどうだろうか。牛乳については「変わらない」が、そのほかの食品について望月氏がこう話す。

「たとえばフリーズドライであれば真空状態で水分のみ抜いているので、熱に弱い栄養素も壊れにくいでしょう。製造過程で高温処理をするものについては、熱に弱い栄養素がたしかに壊れやすいですが、代表的なビタミンCの場合なら長時間の加熱によって損失します。比較的短時間であればそこまで栄養素の損失はないと考えられます。缶のような密閉状態や、遮光性の真空パックされたものであれば、食品の腐敗要因である『熱・光・酸素』を遮断するので劣化もしにくいと思います」