「大量販売」は「大量生産」を支えている

アニマル桃太郎事件の波紋は、ペット業界にも大きく広がった。

アニマル桃太郎は約1千匹の犬を抱え、繁殖業を営んでいた。埼玉県内のペットオークション(競り市)には毎週20~30匹の子犬を出品。子犬たちはペットショップのバイヤーによって落札され、各地のショップ店頭で販売されていた。

関東地方を中心に約50店を展開するコジマ(東京都江東区)でも販売実績が確認できた。事件発覚の1年前までさかのぼって購入者に連絡を取り、健康に問題があったり血統書が届かなかったりするケースなどについて、返金する対応を取った。

川畑剛社長は「その子犬や子猫を買うことで、結果として悪質業者の営業を助けることを望まない消費者が増えている。私たちも、アニマル桃太郎のような業者から仕入れ、販売している会社だと思われることは避けなければならない」と話す。

ただ、全国に店舗網を張り巡らせて「大量販売」するペットショップチェーンの存在が、繁殖業者に「大量生産(繁殖)」を促している側面がある。子犬・子猫を競り市で取引し、華やかなショップ店頭に並べてしまえば、どんなに劣悪な繁殖場があっても、暗部は覆い隠されてしまう構図が横たわる。

写真=iStock.com/Natalia POGODINA
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業者の実態を把握しにくい「競り市」での取引

全国に約130店を持つAHB(東京都江東区)も、アニマル桃太郎の子犬を仕入れ、販売していた。従来は繁殖業者との直接取引のみで仕入れをしていたが、コロナ禍で起きた「巣ごもり需要」の高まりなどで子犬・子猫の在庫が足りなくなり、競り市を利用せざるを得なくなっていた。

競り市の取引では、繁殖業者の実態を把握することは難しい。飼育環境に口を出すこともできない。川口雅章社長は言う。「競り市を通じ、付き合いのなかった業者からも仕入れるようになっていた。その一つがアニマル桃太郎だった。家宅捜索が行われたという報道で初めて、問題のある業者と知った。1千匹という規模は聞いたことがなく、驚いた。数百匹単位で犬猫を抱える業者は管理がずさんなところが多く、直接取引ではそういう業者からは仕入れないようにしていた」

同社では事件を受け、この時点で直接取引があった約1千の繁殖業者については、14人のバイヤーが飼育環境を改めて確認し、問題があれば助言するよう徹底した。全体の5%程度を占める競り市からの仕入れは、入荷した子犬・子猫の健康状態を見て、取引先の選別を進めているという。

やはりアニマル桃太郎の子犬を仕入れていた全国約80店を展開するペッツファースト(東京都目黒区)の正宗伸麻社長は「ペット業界の将来に不安を覚えさせる、衝撃的な事件だった」と話す。