7月31日、日本銀行は金融政策決定会合を開催し、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%程度に引き上げることを決定した。市場の意表を突く利上げで、為替(ドル円)は1ドル=162円から141円台まで円高が進行。株式市場にも動揺が広がり、日経平均株価は8月5日に4451円も値を下げた。なぜ、このような乱相場になっているのか、円高は今後も続くのか、波乱の相場で投資家はどう立ち回るべきなのか。みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏に聞いた。

「円安」傾向はこれからも変わらない

日銀の金融政策決定会合の前、為替は1ドル=162円まで円安が進んでいました。1ドル=160円台に突入したのは1986年12月以来、じつに約38年ぶりで、歴史的な出来事でした。

背景として「日米の金利差」を挙げる専門家が多いのですが、私は「たしかに金利差は重要です。ただし、為替の変動は金利差でのみ起こるわけではありません。近年の円安は構造的なものです」と説明しています。

ドル円相場が円安に向かうのは「円を売ってドルを買う」需要が増えているからです。日本ではゼロ金利政策が続いていたので、その需要の中には「資産を日本円にしておいても増えない。だから金利の高いドルにしておこう」というムーブも、たしかにあったはずです。

しかし、90年代から日米間には金利差がありましたし、その間ずっと円が売られ続けてきたわけでもありません。実行されるどうかは別として、日銀もFRBも年内にあと3回ずつ政策金利を調整する機会があります。

大方の予想では、日銀は今回の影響に鑑みて今年はこれ以上の利上げは見送り、FRBは0.25%ずつ2回の利下げに踏み切るだろうとされています。では、その結果、例えば1ドル=135円程度まで円高が進んだとして、それは「円高」と言えるでしょうか。

2021年、ドル円相場は110円前後を動いていました。22年4月に130円台に到達したときには、「ついにここまで円安が進んだか」といった声も多かったように思います。仮に今年中に135円程度に戻ることがあったとしても、それは過去2年半程度で進んだ円安が半分戻したくらいの話にしかなりません。

私は、現在の円高は“大きな円安トレンドの中の調整局面”にすぎないと考えています。なぜなら、今の日本には円を売ってドルを買う、円安に向かうべくして円安になる構造ができあがりつつあるからです。その最たる例が「新NISA」と「デジタル赤字」です。特に前者は為替市場参加者の間でも最近話題になっていました。

「オルカン一択」が円安を引き起こすワケ

国内では今年1月「新NISA」制度がスタートしました。政府が国民の「貯蓄から投資へ」の流れを後押しすべく、非課税投資枠を大幅に拡大したのです。その人気たるやすさまじく、24年1~3月末時点で186万口座が新たに開設され、NISA口座の累計は2323万口座に及びます。