90歳の母が息子と同居したとたんに……

年をとると、体を動かすのが億劫になり、経済的な余裕があれば、家事や買い物など、これまで自分でやってきたことを、ほかの人にやってもらいたいと思う人もいるでしょう。

私はかつて箱根に別荘を持っていたのですが、そこは自分では使わずに義母に住んでもらっていました。妻は毎週、食材などを買い込んで、浜松から車でその別荘まで届けていました。

さらには管理センターにもセブン‐イレブンがあり、妻がいないときでも電話1本で何でももってきてもらえたのです。

義母は自分で家事をしていましたが、時間があるときは刺繍が好きだったので、いろいろな生地で座布団や前掛け、カーテンなどをつくっていました。できあがったものは、ほとんど人にあげていました。また彼女は、ガーデニングなどもやっていました。

そんな一人暮らしが、およそ30年間、90歳まで続いていたのですが、彼女は幸せそうで、満たされた日々を過ごしていたと思います。

90歳にもなると、さすがに火の扱いが心配になってきたので、親族で話し合って、横須賀の息子の家に住まわせることにしました。

それまで自分でしていた家事は、すべて義理の娘さんがやってくれ、何もすることがなくなり、テレビを観るだけの生活になってしまいました。

すると、ほどなくして彼女はデイサービスに行くようになり、認知症となりました。そして92歳で亡くなってしまったのです。老衰でした。

人は、自分で身の回りのことができなくなると、こんなにも急速に衰えてしまうのだなと痛感しました。

「自分でやるしかない」のは幸せなこと

私の義母と同じように、施設に入ったとたんに認知症になってしまう高齢者は案外多くいます。

だから「介護施設に入ってはいけない」などと言うつもりはありませんが、至れり尽くせりの施設ではなく、むしろ入居者に自分でいろんなことをさせている施設のほうが、健康な高齢者が多くいるように私は思います。

90代の母親を遠距離介護している女優の柴田理恵さんによれば、一時は要介護4で認知症の症状も出はじめていたお母さんが、一人暮らしを始めて、一つずつわかるところから思い出していくようにしたら、要介護2の状態まで回復したそうです。

ちなみに「要介護4」とは、日常生活の動作が、誰かの助けを得ないとほぼできない状態です。ベッドから起きるときは家族や介護士の人に起こしてもらわないといけないし、移動するときは、誰かに車椅子に乗せてもらうことが必要です。

「要介護2」とは、「日常生活に不便があり、誰かの見守りや介護が必要とされるくらい」と定義されます。

高田明和『20歳若返る習慣』(三笠書房)

買い物などもできるけれど、細かいお釣りを扱うのは難しい面や、転ぶ可能性があるから、誰かに見てはもらいたいのですが、立つことも、一人でトイレに行くことも可能なまでに回復したのです。まさに「自分でできること」を、やろうと思えば可能なレベルです。

この話からも「人にやってもらうこと」に慣れすぎてしまえば、かえって人を老化させることもあることがわかります。

だからスウェーデンでは、高齢者をあまり介護施設に入れず、その代わりに、デイケアなどの福祉体制を充実させているのです。この国の高齢者の幸福指数が高いことは、よく知られています。

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