埼玉、静岡など遠方の小中高生のべ500人以上が「指導してほしい」

現在、2人は廃校の校長室だった部屋で暮らしている。廃校の広さは800坪ほど。白浜町の所有する財産で土地鑑定士が入って、評価額から計算される格安の金額で町と賃貸借契約を結んだ。

写真提供=末永将大
二人が暮らす廃校

2階部分が宿泊施設、1階のもともとの職員室がカフェ、理科室が就労の部屋、保健室が訪問部屋、給食室が調理部屋として使っている。一つの「箱の中」で認可をいろいろ取って事業を展開しているわけだ。耐震基準を満たした建築であると認められて、各部屋にほとんど手を入れる必要がなかったことは幸運だった。

「Neast Side」と「カフェハピラブ」の看板(写真提供=末永将大)

宿泊は39人定員、布団は50組ぐらいを用意した。合宿料金が3食で1泊6600円だ。真理さんに「剣道の指導をしてほしい」と埼玉、静岡などの遠方の小中高校が合宿で訪れるなど、これまでのべ500人以上が宿泊しているという。なかにはPL時代の先輩が先生をしている学校もあるそうだ。今年も7、8月の夏のシーズンに9団体が利用した。

昼間はホテルに20人ほどの従業員が出入りする。障害を持つ人々もサカキ作りなどをするために集まる。立ち上げ当初は2人で宿泊者の大量の食事を用意したが、今は調理技術のあるスタッフも加わってくれた。

夜は障害者の訪問介護をするヘルパー8人が在籍する。将大さんも介護に出ることがある。将大さん、真理さん夫婦は限界集落のハブとなっているのだ。

真理さんの仕事の中には剣道教室の指導もある。「将来的には地域の人も集まって健康教室などにも広がっていけたら」とそんな構想も描く。

畑も耕作放棄地がたくさん出てきて、タマネギ、ニンニク、ネギなどに挑戦中。「草を刈るだけで一苦労です」と将大さんは苦笑いするが、藍栽培をしてみようかといったアイデアもあり、真理さんも有機栽培をしていきたい、と積極的だ。

東京ドームの800個分ほど山林も借りている。山をきれいにするという約束でサカキの木を伐りだしている。

初年度と2年度(2022、23年)は赤字だった。公金からの借り入れと関連会社「キューオーエル」からの借り入れと自己資金で数千万円をつぎ込んでいるという。

「今年度は黒字になります」

将大さんは前向きだ。

福祉、障害者支援はエッセンシャル業務だ。

「この事業、やめれないんですよ。利用者にも人生があるし、働きに来ている人も家族がある。放り出すわけにはいかない。“持続可能な事業体”にまでもっていかないと。やっと固まってきました」

将大さんは、毎日最高に楽しいです、と笑顔が絶えない。

今年4月に近くに住居用の物件が出て契約を済ませた。床をはがし、壁を壊してDIYの真っ最中で校長室から引っ越しできそうだという。

真理さんにはオーストラリア、中国など海外指導の依頼も知人などを通して来ている。また、個人的にスポンサーがついて道着にワッペンがついた。

撮影=清水岳志
末永真理さん

稽古環境は恵まれているとは言えないが、そうした場で精進する人をきちんと評価してくれる人はいるのだ。「剣道選手としては私が初めてです。地震予測システムS-CASTを運営する東京の富士防災警備株式会社さんです」


日本生まれの剣道は精神修業の色合いも濃い。お金を稼ぐ手段にはどうかという考えも残って、スポンサーはつきづらかった。競技人口も伸びないという一因にもなっていた。

「世界規模の大会が増えるとか、将来、夢があるほうが子供たちは頑張れる。目標にされるようになったらいいなと思っています」

将大さんも付け加える。

「剣道をもっと知ってもらって下の世代の先駆けになってほしいなと」

夫婦で福祉・宿泊事業などを多角的に展開しつつ、剣道の稽古もぬかりなく、世界基準のビジョンを打ち立てる。現在は、11月3日に日本武道館で開かれる全日本女子選手権での4度目の優勝を目指している。

コンビニまで20分の山の中から〝変革〟は確実に起こっている。武道を極める道に終わりがないのと同じ、2人の目指すものに終わりはない。

 

関連記事
武士道に魅せられる「外国人剣士」が増加中…29カ国102人に聞いた「剣道が愛される3つの理由」
「平均1250円」名古屋の高額弁当店に全国から客が続々…女性店長が"300万円自腹"で大繁盛の裏に「大谷翔平」
だから2年で200店舗の「スピード出店」ができた…うなぎ専門店「鰻の成瀬」に"飲食店の素人"が押し寄せる理由
金メダル選手がアダルトサイトで生活費を稼いでいる…海外紙が報じた「オリンピック選手」の厳しい給与事情
首都圏の2倍の料金に目がテン…「青森移住10年」でわかった"日本一の短命県&生活費バカ高"のカラクリ