5年かけて1冊を読むでもいい

すると、少しずつ見えてくる。そんな発見をささやかな収穫として読み進む手がかりにするわけです。のろのろしても時間は進むもちろん、こんな調子だと1回に進める量も限られます。

この読書会は、もう5年以上通っているでしょうか? いったい、いつになったら読み終わるのやら、と時々不安にもなります。でも、ありがたいことに思ったより早く終わるのです。

大人になると、1年という時間はあっという間に過ぎます。何もしないでグズグズするうちにも、時間は容赦なく溶けていく。1週に1回続けていくうちに1年たつと、それなりに先に進みます。この調子でいけば、あと5年かければ1冊読み終えられるかも、という予測や希望も出てきます。

嫌になったら、とにかく、今週読む分だけ読んで出席し、誰かの進行で勝手に進んでいくのをボンヤリ見ています。1回に進む分量は少なくても、ダラダラと続けるうちに1章分終わる。

それを何回か何十回かあるいは何百回かクリアすると、もう最後です。ダラダラ続けていればいいのだから、こんな楽なことはありません。自分の気分に頼らないで続けていける点で、読書会は「ややこしい本」を読むには、案外すぐれたやり方なのです。

時間をかけて読書をすることの意味

そもそも、読書はできるだけ速く終わらせる競争ではありません。せっかく「ややこしい本」を読むなら、なるべく良い本、身になる本に出会いたいものです。何度でも読み返し、その一部分を暗記し、それと対話することで、自分の考えをシェイプアップし、これからの生き方や社会を考える。そういう本との出会いこそ読書の醍醐味でしょう。

人間でも、相手ときちんとつきあおうと思えば、時間をかける必要があります。さまざまな場面で一緒になり、相手の言葉や行動を見て、どんな人なのかを見極める。そのうえで、その人がどんな場面で活きるのか想像し、良いタイミングが来たら、一緒に協力できることを探す。それが深いつきあいというものでしょう。本も同様です。

本は、いわば文字の形になった人間です。この形に落ち着くには、それなりに膨大な時間やお金がかけられているはず。とすれば、それなりの時間をかけて、さまざまな角度からつきあわねばちゃんと理解できないし、読んだ内容も活用できないはずです。

吉岡友治『ややこしい本を読む技術』(草思社)

逆に言えば、こういうように辛抱強く読書できる、ということは、他人と丁寧につきあう技法にもつながります。読む訓練を積んでいない人は、他人とちゃんと対話することができません。

相手を理解しようとしなければ、会話でも、言いたいことだけを委細構わず言い散らかすことになる。これでは、自分の発言欲は満たされても、相手は、聞いてもらうための道具にすぎません。そういう自分勝手な人につきあってくれるのは、やっぱり自分と似たような人。私の発言が終わるや、その人もまた、私の発言を理解しようともせず、息せき切って話し出す。こういう相手とは話も深まらず、そのうち、つきあいも途絶えます。

丁寧に読む→他人と丁寧に対話する技法
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