「パパを殺そう」

高3になり、受験勉強が本格化すると、父親は「公務員になれ!」「小学校の教師になれ!」と言い出した。

そのため奈々さんは、教職課程がある大学を受験し、入学。しかし、通学に2時間以上もかかることから、1年半で退学し、半年間勉強して別の大学に入り直す。

そして23歳の頃、再び体調を崩して精神科に入院。きっかけは、無意識のうちに母親のものを勝手に売り払ってしまうためだった。奈々さんは、「統合失調症」と診断された。

「母が使っていない貴金属を総額7万円分ほど売り払い、チェキを買いました。他に、自分の部屋が狭く感じたので、壁を壊したり、母の財布から現金を抜き取ったりしました。入院させられるとき、『退院したら、パパの実家で暮らしてね』と母に言われました」

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父親の実家は母屋と離れがあり、祖母は母屋、父親は離れで暮らしていた。奈々さんは母屋の2階で暮らし始めたが、当然、離れて暮らしていた頃より父親と会う機会は増え、案の定、父親の干渉が激しくなった。

「公務員になれ」「小学校の教師になれ」だけでなく、「アルバイトでは食べていけない」と泣きわめかれたり、着ている服や持ち物にまでケチをつけられたり、挙げ句の果てには彼氏にまで「公務員になれ」と口を出される。

父親の実家暮らしを始めてしばらく経ったある日、奈々さんは父親を殺そうと思い、ホームセンターで包丁を購入。

しかし、実行には移さなかった。当時の心境を振り返った奈々さんは言った。

「自分で殺した先にある未来と、ただ死ぬのを待つ未来を比べた結果、自分で殺すのはコスパが悪いと思ったんです」

「父が死んでからようやく、私の人生が始まる。それまで待とう」

小学校の教員になることは、母親が父親を説得したらしく、父親は諦めてくれた。

「『勉強というものは、精神が安定している人がするものであって、私のような精神的に不安定な人がやるものではない』ということを常々母に言っていたら、父を諦めさせてくれました。私はそもそも子どもが怖く、苦手なのに、無理やり教育実習まで経験させられ、とてもつらかったです。実習先の子どもたちは何も悪くないのに、こんな向いてない実習生が来てしまい、申し訳ないなと思いました」