パスポートを持っている日本人は「6人に1人」
こうした事象をわかりやすく示すデータの一つが、日本人のパスポート保有率である。
図表1は、ここ10年ほどの日本人のパスポートの保有率を表したものである。その年の有効旅券の既発行数を人口で割ると算出できる。これを見ると、インバウンドが一気に増加した2010年代でも22~25%の間をほぼ横ばいに推移、おおむね日本人の4人に1人がパスポートを持っていると言って間違いがなかった。
ところがコロナ禍が始まった2020年から保有率は低下をはじめ、2023年にはおよそ17%に落ち込んだ。日本人の6人に1人しかパスポートを持っていないということになる。また、保有率は都市部と地方で格差が大きく、2022年のデータでは、最高の東京都(29.9%)は最低の秋田県(5.8%)の5倍ほどとなっている。
2023年の保有率は前年から下げ止まっているように見える。本来ならコロナ禍で渡航がままならずパスポートの取得を控えた人たちの再取得で、保有率は反転して上がると期待されていたが、そうはならなかった。
「内向き志向」は望ましいとは言えない
なお、他国のパスポート保有率はデータを取得できる年がまちまちなので比較しづらいが、英国が80%程度、アメリカが50%程度などと、日本に比べて格段に高い。日本はG7の中では最低であるだけでなく、近隣の国・地域と比較しても(韓国が40%程度、台湾が60%程度)かなり低い。
「観光立国」は、海外から人が来てもらえればよいのであって、日本人が海外に行くかどうかは関係がない、むしろパスポートを所有していなければ、旅行は国内に限るので、国内の観光地も潤う。そもそも入国者が出国者より多ければ、「外貨を稼ぐ」という意味ではプラスになるので、歓迎すべき事態だという考え方もあるかもしれない。
しかし、筆者は入国者の人数と同じくらいの人が海外に行き、見聞を広め、海外の観光事情も知ってこそ、長期的に「観光立国」を支える下地になると考えている。
繰り返しになるが、自身が海外渡航の経験があれば、訪日観光客の気持ちを汲んで接することができる。そもそも海外経験がないと、思考が内向きになりがちで、日本を世界の中に位置づける視点を持ちにくくなる。エネルギーも食料もインターネットのプラットフォームさえも海外に依存する日本で、内向きの人が増えることは望ましいとは言えないだろう。