観光地に旅行者が集中する「オーバーツーリズム」が世界遺産の富士山でも問題になっている。フリージャーナリストの宮原健太さんは「解決に向けて山梨県は『富士山登山鉄道構想』を打ち出したが、往復運賃1万円という試算に反発の声も大きい。解決には時間がかかりそうだ」という――。
10月15日の富士山五合目の様子
筆者撮影
10月15日の富士山五合目の様子

富士山でも問題になる「オーバーツーリズム」

10月15日、全国で残暑が続くなか、富士山五合目はコートを羽織らなければ寒いほどの気温となっていた。既に登山道は閉じていたが、五合目は多くの観光客でごった返している。その中からは中国語や韓国語も聞かれ、訪日外国人観光客(インバウンド)が回復してきていることが感じられた。こうした富士山観光の光景が大きく変わるかもしれない。

現在、富士山五合目は登山道のほかに、「富士スバルライン」という有料道路を使うルートがあり、車でも到達することができる。そのため、富士の麓を見下ろす絶景を目当てに多くの観光客が訪れ、名所となっている。一方、その手軽さによって、富士山は「オーバーツーリズム」に悩まされている。

コロナ禍が明けて日本に来る外国人観光客が急増するなか、全国の観光地で過度な混雑やマナー違反、宿泊施設不足などが指摘されている。こうした事態を受け、政府も10月18日に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を策定し、観光客を様々な観光地に分散させることや、環境に配慮した「エコツーリズム」の推進を支援すると表明した。

世界遺産登録から抹消されてしまう可能性も

ただ、富士山が抱えている「オーバーツーリズム」の問題は、他の観光地より深刻だと言える。富士山は2013年の世界遺産登録時にユネスコの諮問機関・イコモスから、「収容力を踏まえた来訪者管理の実施が必要」「自動車・バスからの排気ガスが懸念される」と指摘を受けており、対策が求められているからだ。全国的に観光客が増加しているなか、富士山五合目の来訪者数も、世界遺産に登録された2013年には268万人だったものが、2019年には506万人まで増加している。事態はより深刻になっているのだ。

イコモスによると、改善が行われなければ、将来的には世界遺産としての価値が危機的状況にさらされている「危機遺産リスト」に登録されてしまい、それでも状況が改善されなければ世界遺産登録から抹消されてしまう可能性があるという。そこで、山梨県が先手を打って発表したのが「富士山登山鉄道構想」だ。