月200棟以上販売の屋上庭園
同じくパッケージ化された最上級タイプは、ジャグジーを設置し、ソファセットや大画面テレビなどがプラスされるが、それでも総額はたった199万円。
「要望通りにすることだけが顧客満足だとは思いません。優れたパッケージをつくって顧客に選んでもらう。オールインワンの完成形を、iPhoneやiPadにしてポンと出したアップルと同じです。嫌なら他社製品を買うしかないけど、ほかには代えがたい“価値”がある。そんな商品が顧客の心を掴むと思ったんです」(岡崎氏)
この屋上庭園がスマッシュヒットとなったのは、価格戦略の成功だけでなく、「リゾート」をキーワードにしたデザイン性が優れていた点も大きい。
庭園イメージのもとになったのは、岡崎氏が20代で盛んに旅したリゾートの印象である。
「沖縄やバリの高級ホテルへと、金もないのによく出かけました」と岡崎氏。そして、その構想を具体化するうえで、頼れる部下がいたことも見逃せない。
それが大久保妙子氏である。大学で建築学を学んだ大久保氏は、屋上庭園の構想が持ち上がった際に、それを図面にする役目を自ら買って出た。
「屋上のイメージを部内で共有するには、言葉だけでは無理だと思い、指示はなかったけれど図面を起こしました。それがきっかけで、いつの間にか設計担当のようなポジションになりましたね(笑)」(大久保氏)
以来、設計、設備、家具の選択など、庭園デザインに関するすべてを26歳の大久保氏が担当している。その任命にあたり、岡崎氏は大久保氏をヨーロッパに派遣し、世界中の家具が集まる見本市・ミラノサローネや、ガウディ建築が街中に点在するバルセロナへと足を運ばせた。最高峰のインテリアや建築を見るだけでなく、屋上利用が文化として定着している南欧の日常に触れ、そこで実感した「人生を楽しむ暮らし方」を、商品づくりに反映させる意図があった。
このような過程を経て完成した屋上庭園への反響は大きく、発売翌年には月200棟以上の安定した販売数が見込めるようになった。今や屋上庭園事業は、ジリ貧にあえいでいた断熱工事事業と同等の売上高とはるかに高い利益率を実現し、同社の新たな主力事業に成長している。
さらに12年には、冒頭の「屋上付き戸建て住宅」も商品化され、初年度から5億の営業利益を見込んでいる。全くの未経験市場への進出が成功した結果だが、これが同社の「イノベーション」第二段階といえるだろう。