都合のいい「やる気スイッチ」などない

以前、ある学習塾のCMで「やる気スイッチ」という演出がありました。身体のどこかに「やる気スイッチ」が隠されており、ONにした途端、子どもが叫びながら走り出す――。

写真=iStock.com/Planet Flem
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この演出を見ると、あたかも「子どもたちが勉強に着手しないのは、やる気がないから」で、スイッチをONにすれば、自主的に勉強しだすように見えます。

私の考えを結論から述べると、「やる気スイッチ」なんて都合のいいものは存在しません。それどころか、「やる気」がわく瞬間は、偶発的に訪れることを除けばほぼ存在せず、「やる気がわく」ことを期待している限りは、一生着手できない可能性が高いです。

ですが、そうすると、いま私が記事を書いていることに矛盾が生じます。私は今「早くこの記事の続きを書きたい」と考えながら手を動かしており、まるでやる気に満ち溢れているように見えるでしょう。そして、確かに私は今それに支配されながらキーボードをたたいている。どこかでやる気が放出された瞬間があるはずです。

では、どのようにすればやる気は溢れてくるのか。私の考えでは、やる気は実際に着手した瞬間から放出されます。「やる気が出たからやる」のではなく、「やり始めたからやる気がわく」のです。

親ができることは「やり始め」の環境づくり

私は、キーボードをたたき始める前まで、数千にも及ぶ文字列を生成しようとは全く考えていませんでしたが、着手してからは書くべき内容がとめどなく溢れて止まらなくなっています。既に、「この仕事が終わったら、次はこの記事を書こう」と別の予定まで考え始めるほどやる気が溢れています。ですが、仮にいま30分の休憩をとったなら、またやる気はゼロの状態に戻ってしまうでしょう。

静止摩擦力と動摩擦力の関係をご存じでしょうか。静止した物体を動かす際に働く摩擦力と、動き続ける物体を動かす際に働く摩擦力では、同じ物体を動かすとしても、前者のほうが後者より大きくなります。「仕事をやり始める瞬間」が、一番負担がかかるのです。そして、一度始めれば、思っている以上に容易に継続が可能なのです。

だからこそ、子どもたちのやる気を引き出すためには、「やり始め」のハードルを越えさせることが重要といえます。スタートの号砲をどのように用意するかこそ、親にできる最大限の努力となります。