寅子と航一が別れていたら「婚約破棄」?

例えば、法律婚と同様に、同居・協力・扶助義務、生活費分担義務を負いますし、別れる場合の財産分与や慰謝料の支払義務も負います。一方で、法定相続人になれなかったり、子どもが生まれた時に父がそのまま親権者になれなかったり、税制面の優遇制度が受けられないというデメリットもあります。

出所=『新おとめ六法』(KADOKAWA)

では、寅子と航一が「別れる」道を選択していた場合、どうなったでしょうか? その時点で婚約が成立していたかどうか、単に交際していただけで、将来結婚する意思まではなかったのかにより、さまざまな違いが出てきます。

婚約というのは、「結婚の約束(予約)」です。当事者双方の約束があればよく、特にそれ以外の要件はありません。問題は、一方が「婚約している」と思っていたのに、もう一方は「婚約まではしていない」と思っていた、というケースです。

法的に「婚約」と認められるのはどんな場合か

交際しているカップルが「いつか結婚したいね」等と何気なく話すことはよくあるでしょうが、それだけで「婚約した」とは言えません。結納を交わす、結婚式場を予約する、婚約指輪を購入する、結婚後の住宅を購入・賃貸するなどの事情があれば、認められやすいと言えます。

また、そこまでいかなくても、両家の顔合わせをする、職場や友人に「婚約者」として紹介する、すでに同居している、結婚式場の下見を重ねている等の事情が複数ある場合も、婚約と認められる場合があります。

婚約が成立していたのに一方が不貞行為をした、莫大な借金や前科があることを隠していた場合などは、それを理由に婚約破棄をすることに正当な理由がありますので、相手に慰謝料を支払う義務はありません。ただし、破棄の原因を作った人は、相手から慰謝料を請求される可能性は高いでしょう。

ところが、「性格の不一致」「親の反対」などによる婚約破棄の場合、「正当理由がない」ということで、婚約破棄した人が、慰謝料を請求されることがあります。これは実務上の運用なのですが、私自身はおかしなことだと思っています。婚約していても、徐々に相手の性格があらわになり、「この人とはとてもやっていけない」と思うことは少なくないからです。

慰謝料を請求されないために、無理して結婚しても何もいいことはありません。離婚は、婚約破棄の何倍も大変なことが多いのです。