寅子と航一の婚約は成立していない?

少し話がズレますが、結婚を決意する際、相手に気になる点があっても、「結婚したら直るだろう」「子どもが出来たら変わってくれるだろう」と根拠なく信じて結婚し、結婚後に「全然変わってくれなかった」と後悔して離婚相談に来る方はたくさんいます。

恋愛中や婚約中は、相手のいいところだけ過大評価する傾向にあると思いますが、「結婚前に気になっていた相手の悪い点は、結婚後にさらに悪化する」と考えるのが無難です。その欠点も含めて受け入れられるか、結婚前に正直な気持ちを伝えて改善されるまで待ってみるのか、一度立ち止まって考えてみましょう。

話を「虎に翼」に戻します。寅子と航一の場合、婚約が成立していたか? というと、微妙なところで、私個人としては、「成立していない」と判断されるように思います。結納は交わしていなかったようですし、結婚式には「心が躍らない」寅子ですので、結婚式場の予約などという話は一切出ていません。

2人が交際していることは、家族や親しい友人に話しているものの、「結婚する予定だ」という話はしておらず、航一が何度か遠回しなプロポーズをしても、寅子が気づいていない状態が続き、友人に「結婚する意味がわからない」というような相談もしていたからです。

仮に婚約が成立していて、別れることになっても、寅子と航一であれば、どちらかが慰謝料を請求するということはなく、穏やかに「信頼できる同僚」に戻ったかもしれません(『新おとめ六法』p180–p181参照)。

手をとりあう二人
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法律婚を受け入れられなかった寅子の思い

さて、寅子と航一が法律婚を検討するに当たり、一番の大きな壁は「どちらの苗字を名乗るか」ということでした。現行民法は、夫婦同姓制度を定めており、夫か妻の姓のどちらかを名乗らなければなりません。

寅子は「星寅子になると、弁護士や裁判官として生きてきた佐田寅子が消えてしまう気がする」等と悩みます。そのため、航一は「僕が佐田航一になる」と宣言するのですが、航一の義母が「絶対に認めない」と強い意思を表す場面もありました。その結果として、誰もが納得するであろう、「結婚はするけれど婚姻届は出さず、夫婦のようなものになる」という「事実婚」を選択した2人でした。

この問題は、令和の今も日々生じています。姓を変更したくないために事実婚を選ぶ夫婦は少なくなく、「選択的夫婦別姓制度」を求めて裁判所に訴える人が後を絶ちません。姓を変更すると、それまでの人間関係や仕事上の立場の連続性がいったん切れることがありますので、「変えたくない」という気持ちはよくわかります。