億円単位のファンドなら分散投資の限界を気にしなくていい
投資信託の最大のメリットの1つは、その規模だろう。ファンドの総額が10億円は最低限に近く、100億円以上を目指すのが普通である。この規模は、普通の個人の資産額を大きく超えている。
ファンドの規模が大きいことはいくつかのメリットをもたらす。考えられる点を図表2にまとめておいた。
1つは、得られる情報量が増えることと、その情報に基づく分析の質の向上である。一人の個人として可能な情報収集、分析などの範囲には限度がある。それを組織として行えば、多種多様なデータを集められ、分析できる。
企業を訪れて対話をしてもいい。データベースを契約してもいい。またさまざまな計算ツールを駆使してデータを加工してもいい。もちろんデータやツールがそろうだけでは十分ではなく、運用の責任者が分析の方向性を的確に示さないといけない。
付け加えると、アセットマネジメント会社が多様な分野の調査と分析を手掛ける必要はない。特定の分野だけに集中するのも評価できる方針である。
もう1つは、運用に投資理論を適用できることである。その代表事例が分散投資である。資金を分散して運用するとしても、個人の資金量ではすぐに限度に達する。この点、億円単位を超すファンドであれば限度を気にする必要は少ない。
もっとも、TOPIXを構成する2146社(2024年4月末現在)のすべての企業に投資しようとすれば少々の規模では限界に達するが、分散投資の効果は逓減する。
このため、億円単位のファンドであれば分散投資の限界を気にする必要に乏しい。つまり、個人が投資信託に分散投資効果を期待するのには、何の支障もない。
専門的な運用能力への期待
個人が投資信託に魅力を感じる理由として、投資信託のポートフォリオが専門的な運用能力によって組み立てられていることを挙げていい。
この「専門的な運用能力」という観点はいくつかに分けられるだろう。図表3では、その専門的な運用能力が何によって構成されるのか、筆者の見方を示しておいた。
1つに、専門的な運用能力が人材によって支えられているのは当然である。しかし、一部のカリスマ的人材だけに頼ってはいけない。アセットマネジメント業界は転職が多い。
カリスマ的人材が辞めてしまえば、運用能力が著しく低下するかもしれない。ということで、組織として、後を継げる人材が必須となる。
もう1つは、アセットマネジメント会社としてカバーする領域に注目したい。大手のアセットマネジメント会社であれば総合力をアピールするのだろう。
しかし個人が利用したいのは、未知に近い領域であることが多いと、実感している。たとえば急速に発展する国・地域や産業分野である。
筆者が利用した発展する国・地域としては台湾、韓国、ロシア、ブラジルなどがあった。
しかしこれらが成果を生み出したとは記憶していない。投資信託の設定時期が時期尚早だったのか、もしくは当時のブームに乗りすぎたのかもしれない。
発展する産業分野としては、医薬を含む医療やクラウドや鉄道があった。こちらは成果を生み出したと評価したい。これらの産業の立地地域の多くが先進国だったことから、アセットマネジメント会社の能力が発揮しやすかったのだろう。
結論として、アセットマネジメント会社に一国の経済発展や政治体制まで含めた調査、分析、判断能力を期待するのは無理があるのかもしれない。国や地域というよりも、産業に絞り込むのが望ましいと感じている。