「知らないものにはお金を使わない」という基本原則

「きぬた歯科」躍進の原動力である看板戦略について述べてきたが、ここから、ひとつのマーケティングの基本原則を導き出せる。

それは、「人は知らないものにお金を使わない」という原則だ。驚くことに、このシンプルな原則を、実に多くの経営者やマーケティング担当者は忘れてしまっているように思えるときがある。

どんなビジネスも、事業を拡大し展開していくには、とにもかくにもまず「知ってもらうこと」「認知してもらうこと」が最重要事項であり、そこからスタートしなければ、どんな施策を行ってもうまくいかない。

無論、「きぬた歯科」の看板を街で目にしたところで、すぐに「きぬた歯科」にやって来て、「先生、インプラント治療をしてください」とはならない。

歯科医院を選ぶ基準は、たいてい自宅や勤務先の近所か、その医院に清潔感があるかどうか程度だろう。たとえ中央線沿線に住んでいても、わざわざ電車に乗って西八王子までやって来ないのがふつうである。

しかし、「きぬた歯科」の看板広告が頭のなかに刷り込まれていると、話は少し変わってくる。実際に歯科医院を探すときに、ひとつの選択肢として、あのうさん臭いビジュアルが頭にふと浮かぶかもしれないからだ。

きぬた泰和『異端であれ!』(KADOKAWA)

頭に「きぬた歯科」のことが浮かんだとしても、実際にはほとんどの人は来院しない。でも、100人いれば、そのなかの数人は来院してくれるかもしれないということだ。

たとえ来院する人がひとりもいなくても、その人の周囲に歯科医院を探している知り合いがいれば、話題に出してくれるかもしれない。「そういえば、八王子にインプラント治療で有名な歯科医がいるみたいよ」と。

いつどんな行動をするのかわからないのが消費者であり、それはコントロールできない要素だからこそ、とにかく消費者の頭のなかに入り込むことが重要なのである。

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