「夢のような老後」を語るマスコミの数字に踊らされない

週刊誌やテレビで、老後には「ウン千万円が必要だ」などと報道しています。こうした数字を見た奥さんが、「うちにはそんなお金はないわ。これからどうしたらいいんでしょう?」と不安を口にするようになったことから、前述のMさん夫婦は「老後の生活会議」を開こうという流れになったそうです。

保坂隆『お金をかけない「老後」の楽しみ方』(PHP研究所)

奥さんが聞いた老後資金は、年金のほかに最低でも2000万円、ゆとりのある老後を送りたいのならさらに4000万円、合わせて6000万円ほどの蓄えが必要だというもの。ある保険会社が主催した「定年セミナー」で配られたパンフレットにあった数字だそうです。

悠々自適の「夢のような老後」を追い求めれば、こうした金額になるのかもしれませんが、私たちが生きていくのは夢ではなく現実です。まず見つめるべきは夢ではなく、現実だということを自分にしっかり言い聞かせましょう。

実際問題として、老後にこれだけのお金を用意できるのは、ごく一部の恵まれた人々だけです。試しに、あなたの周りの人たちを見回してみてください。世の中のほとんどの人は「ポケットの中の小銭」で暮らしているのが実状だと、認識することも大事でしょう。

Mさんもそんな大金とは縁遠いそうですが、夫婦でしっかり話し合ったという事実の満足感のほうが大きく、「うちはうち。あるお金で、何とかやっていきましょう」と奥さんの表情は見違えるほど明るくなったそうです。

いまは情報時代なので、マスコミやネットなどから多くの情報を得ることをやめなさいとは言いませんが、それに煽られたり踊らされて、むやみに不安を増大するのでは意味がありません。

一般情報はあくまでも参考データにとどめ、「うちはうち」「私は私」でやっていく――。これは人生の基本姿勢であり、「老後の経済」も例外ではありません。

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